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風邪引き-1sideりつ
ある日の午後1時過ぎ。
りつはゆうじの揺れる頭を眺めていた。ソファに深く座ったゆうじは、右手でこめかみを押さえて眉間に皺を寄せている。
ソファの前のローテーブルで字を書く練習をしていたりつは、鉛筆を置いてゆうじに近付いた。
「ゆうじ?」
名前を呼ぶと、少し赤くなったゆうじの瞳と目が合う。
「…ん?りつ?どうした?分からない字でもあった?」
なんとなく普段よりゆうじの纏っている雰囲気がふわふわしているような気がする。
「眠たいの?」
「うーん、ちょっとだけ。」
ゆうじが眠そうにしていることなんて滅多にない。休日でさえ、昼寝なんてしているのは見たことがなかった。
お仕事忙しくて疲れちゃったのかな。
りつは今にも瞼が閉じてしまいそうなゆうじの肩をそっと揺すった。
「あっちのお部屋で寝ないと、風邪ひくよ。」
リビングで寝そうになると、いつもゆうじに言われる事だ。風邪ひくから寝室に行ってベッドで寝なさいと。
だと言うのにゆうじはりつの注意を、首を横に振って拒否した。
「ダメだよ。風邪ひいちゃうってゆうじいつも言ってるじゃん。」
りつは尚もゆうじを促すが、ゆうじはへらりと笑ってりつの頬を撫でるだけ。
「ん、でもそしたらりつが1人で退屈だから。」
「退屈なんかじゃ…、」
この時初めて、頬に触れた掌がいつもより熱いことに気が付いた。
「ゆうじ、手熱いよ…?」
もしかして眠たいんじゃなくて、体が辛いの?
ゆうじの手を握って顔を覗き込むと、怠そうな目が観念したように閉じられた。
「…うん…ちょっとだけ、風邪気味かな?」
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