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風邪引き-2

急いで救急箱から体温計を持ってきてゆうじの脇に挟んだ。そして元々は体調を崩しやすいりつの為にと準備してあるそれを、自分が使っている時よりも真剣に見つめた。 数十秒後、ピピッと音が鳴って映っている数字を覗き込む。ゆうじの体温は、39度まで上がっていた。 「さんじゅう、きゅう…」 りつは父親の元から救い出されて、人間は体調が悪いと熱を出すということを初めて知った。熱を出すと体がだるくなって、意識が朦朧とし始めることも。 りつ自身傷の治療中や、精神的に不安定な時期に何度も熱に魘されてきた。熱いのに寒くて、身体中が痛くて寂しくて苦しくて、堪らない思いをゆうじも今しているのかと思うと涙が溢れてくる。みるみるうちに歪んでいく視界と、引き攣る喉。 頭が痛いのかしきりにこめかみを押さえているゆうじに、縋り付くようにして泣いた。 「ゆ、ゆうじ…しなないでっ…」 このまま熱が上がり続けてゆうじが死んだらどうしよう。そんな考えるのも恐ろしいことを想像してしまって、呼吸が苦しい。 どうしよう、どうしよう。 「こんな風邪で死なないよ。」 「だって…だって…っ」 「りつが気付いてくれて助かったよ。自分でもこんなに熱があるなんて思ってなかったから。でもすぐに良くなるよ。」 「う、ううぅっ」 泣きじゃくるりつの腰を引き寄せて、優しく宥めるゆうじ。その手はやっぱりいつもより熱くて、りつの中の不安はどんどん大きく育っていく。 僕のせいかもしれない。 僕がいるからゆうじはゆっくり休めなくて熱を出したのかもしれない。この間も僕が自分で腕を切ったりしたから、夜寝れなかったから、僕の病院に付き合ったから、ゆうじの分のプリンまで食べたから…。 思い出せばキリがない。いつもゆうじにしてもらってばかりで、ゆうじは疲れてしまったんだ。 このままゆうじが死んだら僕のせいだ。 そんなの絶対にだめ。 「ぼ、ぼく…っ…先生よびにいってくる…」 握っていたゆうじの服を離して、両手で涙を拭って立ち上がった。 アスカ先生のところまでの道なら覚えてる。ゆうじを運んでは行けないから、僕が先生を呼んでくる。 そのまま玄関に駆け出そうとしたりつを、慌てて引き止めるゆうじ。 「え、1人で!?ダメだよそんなの!りつ!」 腕を掴まれて、「絶対にダメだ」と言われた。 その強い口調に、また涙が溢れ出す。 「じゃ、ぼく…、どうしたら…いいの?」 ゆうじが辛いのに、何もできないなんて。 そんなの嫌だよ。 ゆうじの役に立ちたいのに。

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