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風邪引き-5
「…りつ、りつ。」
「…ん、っ」
「そんなところで寝たら風邪引くよ。って俺が言えたことじゃないんだけど。」
とんとんと肩を優しく叩かれて、ふわふわと意識が浮上した。眠たい目を擦って顔を上げると大好きなゆうじが見えた。
「ゆうじ…、」
「ん?」
「ねつは?つらい?」
ベッドに突っ伏すように眠っていた体を起こしてゆうじの額に手を伸ばす。手のひらに触れた体温は、眠る前より随分低くなっている気がした。ゆうじは目を閉じてりつの手を受け入れ、口元を緩める。
「すごく楽になったよ。」
「よかった…」
「これ、りつがしてくれたの?」
ゆうじが手に持っていたのは、りつが持ってきた濡れタオル。
そうだよ、と頷くとゆうじは嬉しそうにくしゃりと笑った。
「ありがとう。優しいね、りつ。」
ゆうじに褒められて、りつは鼻が高い。唇をきゅっと結んでも笑みを隠しきれない。
りつがにこにこしている間に、ゆうじはヘッドボードのデジタル時計を確認して、突然がばりと起き上がった。
「3時…っ?ごめん、お腹すいたよね。昨日の昼から何も食べてないよね?」
焦ったようにベッドから下りようとするゆうじに、首を傾げる。確かに明るかったはずの外の景色はすっかり暗くなっていて、お昼ご飯をゆうじと食べてからは何も口にしていない。けれど、空腹感は感じていなかった。
「ううん。僕暫く食べなくても平気だよ。」
「平気って…」
「慣れてるから。だから平気だよ?」
そもそも“あの部屋”にいた頃は、数日間何も食べないことは珍しいことではなかった。絶えず空腹状態だったが、激しい暴力に耐えることに精一杯でいつしかお腹がすいたと思うことすらなかったくらいだ。だからたかが1食や2食抜いたところで気にならない。そんなことよりよっぽどゆうじの方が大事だ。体調が悪いゆうじに無理に食事の準備をさせるなんて絶対に嫌だ。
当たり前のようにそう言うと、ゆうじが眉を寄せる。何か言いたそうだったけれど、何も言うことはなかった。
「…もう少しだけ寝たら一緒に何か食べよっか。」
あと数時間もすれば外は日が昇って明るくなる。朝になったら、ゆうじはもっと元気になってるだろうか。
こくりと頷くと、ゆうじはこちらに向かって両腕を伸ばす。
「おいで、今度は俺の隣で寝てくれる?」
「え…、でも、」
「一緒に寝てくれないの?」
体調が悪いゆうじに甘えていいのかと少し迷ったが、結局寂しさが勝ってりつはゆうじの腕の中に飛び込んだ。
跪いた体勢のまま眠っていたからか、体が少し痛い。
けれど肺いっぱいにゆうじの香りを吸い込めば、そんなことはどうでもよくなった。
いつものように2人並んで向かい合って横になる。目の前にぼんやりと見えるゆうじの綺麗な青い瞳。
その目が真っ直ぐにこちらを向いて、ふっと細められる。
「おやすみ、りつ。」
長い人差し指で目元を撫でられて、目を閉じた。
「おやすみ。」
少しでも、ゆうじの役に立てたかな?
明日は元気なゆうじに会えますように。
風邪引き
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