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はじめましての-1sideゆうじ

「いや、やっとりつくんに会えるなんて嬉しいなあ。」 玄関の前で豪快にそう笑った男。 前日言いつけた通りにヒゲは剃ってきたようだが、身長も僅かにゆうじより低いだけで逞しい筋肉がついている体は熊のようだ。 本当にこんな男でよかっただろうかと今更心配になってきた。 「…あんまりでかい声出すなよ。腕を高くあげるのもりつの方に差し出すのもだめ。スキンシップもなしで、あとは…」 今日までに散々い言い聞かせてきた注意事項を、もう一度なぞるように繰り返す。りつを怖がらせないために気をつけてほしいことなど山ほどあるのだから。 出会ったばかりの頃、りつはなにに怯えていただろうかと考えながら注意していると、十束(とつか)が苦笑いを浮かべてそれを遮った。 「目線の高さを合わせる、必要以上に近付かない。昔のことは絶対に話さない…だろ?」 もう何度も聞いたよ、と言いたげなその視線に口を閉じる。 確かにここに来るまでにも同じ話をしたかもしれない。 「…分かってるならいい。それと、りつに俺以外の男の人に会わせるのは初めてだから、もしかしたらパニックになるかもしれない。その時は、悪いけど…また、日を改めて…」 アスカ先生に勧められたとはいえ、十束と対面したりつがどうなるか、正直想像もつかなかった。何かあった時はりつの気持ちを優先したいという想いを伝えると、十束は快く頷いてくれた。 持つべきものは友人だ。 「問題ない。さくらにもちゃんと話してある。」 ふっと笑った十束が隣に立っていた女の子を頭を撫でる。 地黒の十束とは正反対の、透けるほどの白い肌と良く似合う艶やかな黒髪を持つこの女の子は彼の実の愛娘。涼し気な水色のワンピースを着て、くりくりの目でこちらを見上げている。 「さくちゃんはお前より賢いから心配してない。」 「ひでえ言い様だな。」 ね、さくちゃんとゆうじが微笑みかけると十束はまた愉快そうに笑った。 さくらは若干小学校3年生ながら、大人びた女の子で落ち着いた雰囲気を纏っている。りつと同年代とは言えないが、大人としか関わったことのないあの子と友達になってもらえないかと頼み込み、ありがたいことに快諾してくれて今日ここまで来てもらった。 優しい年下の女の子なら、きっとりつも怖がらずに話せるはずだ。 「ゆうじさん。」 鎖骨の辺りで少しはねている髪を気にしていたさくらに不意に名前を呼ばれて、体を屈める。 「うん?どうしたの?」 「今日のさくらね、ここにリボンつけてるの。あのね、りつくんに初めて会うでしょう?だからママに可愛くしてもらったの…。さくらお友達になれるかな?」 ツインテールにしている髪に結わえたリボンを指して、不安そうに首を傾げたさくら。愛らしいその姿に、緊張していた肩から少し力が抜けた。 「大丈夫だよ。少しだけりつが人見知りしちゃうかもしれないけど。さくちゃんがいい子だって、りつもすぐに気が付くから。」 ゆうじの言葉にさくらがぱっと笑って頷いたことを確認して、十束ともう一度目を合わせてからゆうじは玄関のドアを開いた。

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