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はじめましての-6
夕方になって、さくらは十束に手を引かれ名残惜しそうに何度も振り返りながら帰っていった。
家の前まで見送って、そろそろ入ろうかとりつに声をかける。
「楽しかった?」
「うん。」
頷きながらはにかむりつが可愛くて、思わずその頭に触れていた。
「よかった。また遊ぼうねって言ってたね、さくちゃん。」
「うん。僕…ちゃんとできてた?」
「当たり前!りつなら大丈夫って思ってた。頑張ったね。」
きっとすごく怖かっただろうに、勇気を出してくれたりつを思いっきり褒めるように両手で顔中を撫で回す。やめて、と言いながらもころころと笑うりつの肩からやっと力が抜けたような気がしてゆうじまでホッとした。
満足のいくまでりつを褒め倒し、手を繋いで家に入る。
リビングで片付けをしている間もりつはゆうじにぴたりと付いて離れなかった。
ひょこひょこと後ろを付いて歩くりつ。
片付けが一段落したところで「おいで」と手を広げ、温かいその体重を受け止めた。
「僕のこと好き?」
「大好き!」
お腹の辺りに顔を埋めたまま不安そうに聞くりつに、きっぱりと答える。するとりつがおずおずと顔を上げた。
「じゃあ、じゃあ…結婚してくれる?」
「うんうん…て、え?」
「さくちゃん、好きな人と一緒にいるのが結婚って言ったでしょ?僕ゆうじとも結婚する。」
丸くて大きな瞳を三日月のように緩めて、りつは花の笑顔を見せる。
その笑顔は勿論極上の可愛さだ。
けれど、珍しいりつからのお強請りにすぐに頷くことはできなかぅた。
「え、な…結婚?」
「ゆうじとずっと一緒にいたいの。」
「でも、俺はりつの結婚相手にはなれないよ。」
「どうして?」
「どうして、って…」
りつの眉が下がったのを見て、ゆうじの眉もへにゃりと下がる。
「僕と一緒に…」
大きな瞳に涙の膜が張り始めた。りつの言葉の先が簡単に読めてしまって慌てて首を振る。
「いたいよ!りつと一緒にいたいに決まってる。でも、でもね。結婚は…本当に好きな人とするものだから。ね?」
不満そうな、納得のいっていない表情を浮かべるりつ。だけど上手い言葉が見つからないのだ。男同士だからなんて、とてもじゃないが自分の口からは言えないし、歳の差のせいにするのも違う。
なんて答えるのが正解なんだろう。
今のりつには俺しかいないけど、きっとこれから今日みたいに新しい出会いがたくさんあるんだ。素敵な人と触れ合って、自然とお互い愛し合う人ができて…。
だけどそんなの今のりつに言ったって、難しいよね。
どうしようもなくて結局りつを諭すように目元を指先で拭ってやっただけ。
「…ゆうじのこと好き。嘘じゃない…、」
「知ってるよ。」
その言葉だけで十分だ。
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