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ゆうじと里帰り-1sideゆうじ
朝から腰元にじゃれついてくるりつと戯れながら、りつを抱きしめたまま勢いよくベッドから起き上がった。けらけらと楽しそうに笑うりつ。
数日前にまた増えた手首の傷を気にしながら、りつの髪に鼻先を寄せて甘い香りを楽しむ。暫くは大人しくしていたりつだったが、そのうち擽ったいと首を竦めて腕の中から逃げ出した。
ベッドから下りてくるりと振り返るりつ。
「ゆうじお休みなの?」
「そう。1週間夏休み。ちょっと遅くなっちゃったけどね。」
心地好い体温が離れていってしまったことを残念に思いながら、ゆうじもフローリングに足をつけた。
朝ごはんは卵を焼いて、りつの好きなヨーグルトにはちみつを入れてあげよう。
まだぼんやりとしている頭をなんとか働かせながら朝食の用意をし、りつの方を見るとリビングでパジャマから着替えているところだった。その様子を気にかけながら、数週間前から考えていたことをりつに打ち明けた。
「りつー、今日さ、ちょっと遠くまで出掛けようか。」
「遠く?橋の向こうより?」
着替え終わったりつが、綺麗な黒髪に寝癖をつけたままキッチンにぴょこりと顔を出す。
「そうだよ。橋よりもっと向こう、俺の実家まで一緒に行こう。」
「じっか…?」
「俺が育ったところだよ。」
実家の意味が分からず、不思議そうにしているりつ。
「俺のお母さんと、お父さんがいるお家。」
その言葉にりつの表情が少し陰った。
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