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第7話

知らない街の夜は少しの心細さと高揚感を伴い過ぎていく。出張も最終日だからと地元の居酒屋に入り、名物料理を食べ一緒に日本酒を2、3杯呑んだ所ですっかり気分が良くなった。普段より柔らかく見える相貌をさらして歩く住吉を見下ろす高坂の眼差しも同じように柔らかい。 「暑いっすね。蒸してる」 「ん。でも雨が上がって良かった」 飲み屋に入るまで降っていた雨は上がっていた。まだ濡れたアスファルトの上を生暖かい風が這っていく。歩いているだけで汗が滲む暑さに呟いた声に返る穏やかな声音に住吉が目を細めた。 「もう、帰らなきゃですね」 「…うん、」 主語が無い。 2人が泊まるビジホにも帰らなければいけない時間であるし、明日には帰路に着かなければはらない。そのどちらを指しているのかは互いに口にしない。 金曜の夜の繁華街の雑踏の中、すい、と住吉の手が高坂の手に伸びた。ぶつかっただろうかと避けようとした指は速やかに捕えられ、五指か絡まり掌が重なる。思わず目を見開き周囲を見回す高坂の姿を住吉がじっと見上げていた。 「…こんな所で」 「誰も俺らの事知ってる人なんていませんよ」 ここは自分達が住む地ではない。 知り合いなどいないと言い含め、繋いだ手を揺らす。知らない土地と、酒を含んだ高揚感に引かれるままに、普段であれば人目を避けなければいけない関係を堂々と晒すような仕草に高坂は照れ臭そうに目を伏せた。 「デートみたいだね」 ぽつ、と呟く声を拾って今度は住吉が小さく瞠目した。気恥ずかしさすら漂うような単語に微かに動揺しては、ふい、と目を逸らしてしまう。 「今日、主任の部屋で寝ようかな」 負けじと落とす声に高坂が緩く首を傾ける。 「住吉くんと同じ部屋だよ?シングルの」 「……主任…天然て言われたことあるでしょ」 深読みしない年上の上司に住吉が一つ間を置いて小さく噴き出す。 せっかくの二人きりの出張だ。最終日位は美味しい思いをして帰りたい。ホテルに戻った高坂が疲れて眠ってしまう前に夜這いをかけてしまおうと決意しながら住吉が少し歩調を早めた。

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