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第14話

深夜近くまで続いた残業の後に二人肩を並べて必死に街を駆けた。時間調整の為にバス停に留まったままの終バスに幸いとばかりに乗り込んだ頃、高坂の息は盛大に乱れ、住吉もまた秋だと言うのに体温が上がり切っていた。 車内は運転手の他に人間はいなかった。ほとんど空っぽのバスの中、二人がけの席を選んでやはり肩を並べて座る。やがて車内に電子音が響いてドアが閉まり、バスは走り出した。 疲労もあり、互いに何も言わずに過ごしていたが、数分もしないうちに高坂のやや厚い肩に、とん、と何かが触れた。 「ーー…、」 名を呼ぼうと口を開きつつ隣を見やった高坂が一度目を瞬かせた後にふわりと目元で笑う。まるで少年の様な顔をして船を漕ぐ住吉の頭が傾き、高坂の肩に乗ろうとしていた。 少し体をずらし、住吉の頭を肩で受け止める。鞄を抱えない方の手がシートに落ちている様を見て、高坂はその上にそっと自分の掌を重ねた。 「ーー…、…どうして、」 次の瞬間、自分の行動に気が付いて瞠目する。誰にも聞こえない声でぽつりと呟いては、重ねた手を避けようとするも意志とは裏腹に腕は動かない。 住吉との関係は恋ではない。 愛でもない。 恋愛など、していない筈だ。 あてのない場所へ彷徨い出すような感覚に陥った。 許されるわけはない。 道を踏み外す事は許されない。 伴侶以外の人間に触れて、触れられたいと思う事などーー許されない。 開いた住吉の手、指の股に自分の指を入れ、絡める。住吉の瞼は開かない。眉間に皺を寄せ、規則的な寝息を立てる唇を見詰めた。 5つ目の停留所に差し掛かる前にこの部下を起こさなければならない。ただ、その前に住吉が目を覚まし、この唇が自分に触れてくれたら良いのに。 漠然と過ぎる願望に気付いては、高坂はまた呆然とした色を載せた溜め息を吐き、途方に暮れた。 (Fin.)

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