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第19話

それは毎週繰り返されるうちに、どこか決まった動作になっていた。 散々貪られた身体をぐったりと横たえ、放心したようにゆっくりと息を吸っては吐く。住吉の体液が溢れる後孔も、濡れた全身もそのままに、乱れたシーツの上に横たわる身体には点々と鬱血痕や噛み跡が刻まれていた。 シャワーを浴び、戻ってきた住吉がベッドの縁に腰掛けることで軋むスプリングに促されたようにようやく高坂が起き上がる。のろのろと上体だけを起こし、軋む腰を支えてサイドテーブルに置かれた喫煙具に手を伸ばす。程なくして小さな着火音がカチリと響き、室内には煙草の匂いと煙が満ちる。 このいつもの動作が、何も口をきかない時間は住吉は嫌いではない。一服付けた高坂はやはり怠惰な動きでベッドから降り、罪悪感を貼り付けた背を向けてシャワー室へと向かう。きっと今日も同じ手順を踏む筈だと思うと、住吉の胸の奥深くが微かに淀む。 この時間を惜しんでいる。 その事に気が付いたのはいつからだったか。 シャワーを浴びた高坂が着替えてしまえば、今週の二人きりの時間は幕を降ろす。木曜日の夜は明け、決して高坂のそれを有することの出来ない週末が訪れる。 嫁には咎められるという喫煙を自分の前では自由に出来る。 それはほんの微かな独占欲に繋がっていることに気が付いたのは、いつからだったか。 煙の中、ちらりと見遣る高坂はやはり呆けたように煙草を吹かしていた。指を伸ばし、汗の乾き始めた髪の毛先に触れると、形の良い目が怯えたように揺れ、そして困ったような眼差しへと変わった。 「…疲れましたか」 下から瞳を覗いて抑揚なく問うと高坂は驚いたように目を瞬かせる。白筒を指に挟んだまま浅く頷く姿に住吉が微かに痛々しげな様子を漂わせて軽く眉を寄せると、高坂が不意に眉を垂れた。 「住吉くんは、…優しいんだか、そうじゃないんだか、…わからなくなる」 どこか悲しげな響きを持って呟かれた言葉に住吉が小さく瞠目した。 長い睫毛が高坂の目元に影を作っている。白筒を挟む細い指に指で触れ、火のついたそれをそっと奪っては代わりのように唇を塞ぐ。よく知った、苦い香りが住吉の唇に移った。 「…わからなくていいです」 わからなくて良い。 わからないままで良い。 自分の思いなど知らなくて良い。 自覚なんてしなければ良かった。 気が付かなければ良かった。 遊びのつもりでいたのなら、この時間も煙った空気も、触れた唇も独占したい等とは思うことは無かった。 「…けど、」 「…シャワー、して来たらどうです」 普段の抑揚の無い声に、更に低さを被せて呟いた。手順を崩された高坂は途方に暮れたようにまた俯く。僅かに戸惑うような間が空き、ベッドのスプリングを軋ませて今日も後悔と罪悪感を背負った体が別の部屋へと消えていった。 恋に落ちるなんて、自分じゃない。 これは遊びだ。 あれは人のものだ。 人のものを欲しがるなんて、自分じゃない。 指に残された白筒を唇に寄せる。 口の中に広がる苦味までも惜しくなる自分に、強く眉を寄せた。

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