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第45話

もう使われていない会議室の隅は、いつしか逢い引きの為の空間として使われるようになっていた。少し埃っぽい空気の中、目隠ししてくれる古びたキャビネットに背を預け、戯れや言葉遊びの延長の先の決まり事であるかのように高坂はそっと瞼を落とす。 「…鍵、かけて来ました?」 無防備に淡く唇を開き、そこが女心を擽るんだろうなと想像が出来る甘えたような角度で顔を傾ける高坂に、惹かれるままに唇を寄せかけた住吉がはたと視線を逸らす。フロアの隅、人気の無い会議室。それでも時折、自分達のような秘密の関係を繋いだ人間や、サボりを企んでやって来る人間は訪れる。後から入室してきた高坂が軽く目を瞬かせた。 「……どうだったかな」 「…主任そういうとこありますよね」 もし今ここに誰か来たのなら。 二人の関係を見られたのなら。 それよりも。高坂のこの表情を自分以外の誰かに見られることは、どうにも我慢がならない。許し難い。 爪先を持ち上げた住吉が、ほんの一瞬掠める程度に高坂の唇を奪って離れる。小さな瞠目の視線が背に向く気配を感じつつ、住吉はドアへと歩いていく。 「…鍵かけたら、続きしますから」 呟くような愛想のない声にすら高坂の鼓動は跳ねてしまう。錠の落ちる音を待ちわびている自覚すら無い様子の高坂を振り返った住吉が、にわかに充たされる独占欲に口元を持ち上げた。

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