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第60話

キャビネットが整然と並ぶ一方で、部屋の隅には不要なものが雑然と積み上げられているような無機質な部屋の中には互いの吐息の音と、卑猥さばかりを感じさせる水音と、相変らず低く唸るような空調機器の音が満ちている。 壁に背を押し当てた高坂に住吉が身体を寄せる。立ったまま足を絡ませるように身体を密着させながらも、背後を気にする緊張感は無くしてはいない。だが、そんな住吉の意識すら奪うように、少し背の高い高坂の方から幾度も口付けが落ちてくる。 同時に、煽るように触れられ、スラックスの中から外気に晒された住吉の熱は既に完全に天を向いている。高坂の指が愛しげな手つきで陰茎を行き来し、時折先端を擽ると、住吉がその度に悩ましげな息を吐き、口付けを返す。 一方でその住吉の手も高坂の下肢の肌に触れていた。 足元に落としたスラックスが皺になることを気に留めず、高坂が自ら晒した双丘の奥に住吉の指が埋め込まれている。音を立てて指を抜き差しする度に、高坂の膝の力が抜けそうになるのが手に取るようにわかった。 「っ…、ねえ、…もう、」 「…正気ですか、」 精一杯、強請るような甘えるような声に住吉がようやく顔を上げて高坂を見やる。未だ困惑の色を載せた目に笑って見せながら、高坂が軽く片足を持ち上げる形で双丘を開き、自らが指で触れる住吉の固い先端を奥の窄まりへと導いた。 こんな所で、住吉が口にする前に体重を落とす。 指の抜けた高坂の奥を住吉の熱が割開く。 深く呼吸を吐き出しながら、ゆっくりと、味わうように住吉の雄を飲み込んだ。 「ね、…痕、つけて、」 「主任、」 ボタンを外し、胸をはだけさせたシャツの襟を開いて示す。囁くようなその要求を、高坂の方から口にしたことは無いことを住吉は知っている。 高坂の真意はいつまで経ってもわからない。 瞳を覗くも、普段と同じようにただ柔らかな眼差しで自分を見下ろすだけだ。 ヤケを起こしたように、住吉は高坂の日に焼けていない肌に唇を押し付ける。強く吸い、鬱血させ、そこに歯を立てた。 「ッ…!」 住吉の欲が強く締め付けられる。眉を寄せ、下から身体を突き上げると、高坂が耐えかねたように住吉の胴に腕を回してしがみつく。 「もっと、」 「主任…っ、」 「もっと、…してよ。智洋」 熱が上がる。 なけなしの理性が消えていく。 高坂が初めて口にする要求の全てに答えたくなる一方で、この行為が終わると全てが終わるのかという、未だ理由がわからないそれが恐怖となって住吉の背を撫でる。 高坂がわからない。 強い目眩すら起こしそうな感覚に歯を食い縛り、住吉は一層強く高坂の身体を突き上げた。

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