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第61話
膝から力が抜け、壁伝いにずるずると床に落ちた後は、その場から動けなくなってしまった。
汗で濡れたシャツや、靴を履いたままの足元で丸くなっているスラックスや下着が不快だったが、高坂は同じように冷たい床に腰を下ろした住吉を両腕で抱き締めている。
高坂の中で吐精した後、住吉は高坂の首元に額をを埋めたまま頭を上げない。
ちょうど高坂が強請り、住吉が痕を刻んだ箇所に住吉の前髪が触れている。
そっと髪に触れると、ぴくりと肩を揺らした気がしたが、やはり顔を伺うことは出来ない。
「住吉くん、」
互いにこのままでは帰れない。
部屋を出て、何か拭くものを持ってこなければと頭の片隅では思っているものの、住吉は高坂を離そうとはしない。
行為の最中には聞こえなかった空調の音が戻ってきた。
廊下に人気はないだろうかと耳を澄ますも、集中力は散漫になる。
重たい体を上下させて息を吐き出し、住吉の髪を撫でた。
「…会社では…、しないようにって思ってたんだけどなあ」
喘ぎを噛み殺した声が掠れていた。苦笑を混じらせたつもりが、上手くはいっていない。身動ぎしない住吉の頭を撫でては、鼻先でそっと髪に触れた。
「…ち、…住吉、くん、」
住吉の呼吸が高坂の肌に触れる。
今何を考えているのかはわからない。
決して離すまいとするかに力を込める住吉の掌や指の感触を享受しては、目元を緩めた。
「住吉くん。…ごめんね、」
住吉がまた呼気を詰める。ごく小さく、頭が左右に振られた気がした。
「ごめんね。住吉くん。ごめん、」
何に対して謝っているのかわからない。
ただ、終わりにしようと口にしたことに酷い罪悪感を覚えている。
じっと息を潜めて住吉を抱き締める。
遠くで何かが動く気配があったような気がして一瞬目を上げるも、視界には閉じたままのドアと、そこに開けられた覗き窓があるだけである。
目を逸らし、柔らかい髪の中に鼻先を埋めてしまう。全身で住吉の体温を受け止めると、この時を惜しむ以外のことは考えられなくなってしまった。
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