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第66話

行った事の評価は他人がするもので、更に言うのなら結果は成果としてそのまま現れるだろうと住吉は思っている。 ただ、プレゼンにはおそらくこれまで働いてきた中で最も全力を尽くし───今持っている力を出し切る事が出来たと感じている。 この数日間、高坂のことから目を逸らすように仕事にだけ集中していた。 少しでも隙や時間が出来ることが怖かった。 ただ、プレゼンの最中に脳裏には高坂の顔があった。 高坂に見てもらいたかったな。 思った事のない殊勝なことを思い、全てが終わった後には自分のこれまでの道筋と、今日のこの日を褒めてもらう夢想に浸った。 打ち上げ、というものは結果が出てから行った方が良いのではないだろうかと思ったものの、プロジェクトに携わる人間達は一旦息をつきたいという思いがあったのだろう。 会社に程近い居酒屋の店内で、大人数が掛けられるテーブルの隅の方の席をキープすることに成功した住吉は景色を眺めながらぼんやりとジョッキを傾けている。 明日が休日であることを思い出し、いっその事正体を無くすほど飲んでしまおうかと思ったものの、酒は進まない。時折近くの席から話を振られては適当に返しつつ、ほとんど上の空でジョッキの中の甘い酒を喉へと流し込んでいる時間が続いていた。 「お疲れ、」 場が温まると共に、各々酒と箸を手に席を移り始めた。空気は緩んでいるものの、とりあえず一次会は付き合わなければなるまい。鼻から息を抜きつつテーブルの上に箸を伸ばした住吉の隣に男が一人腰掛ける。谷地だった。 「…お疲れ、」 ちらりと顔を見やる。相変わらず愛想の良い笑みを載せた顔が住吉に向けられていた。 「良かったよ。今日、」 ───作り笑いの中に、探るような目の色をしている事に気が付いたのは、ほんの僅かな沈黙を挟んだ後の谷地の声音が落ちていたからだ。 見ると、目を伏せるようにして住吉の反応を待っている。手にしていたジョッキの中の酒を飲み干してから谷地に対して斜めに体を向けた。 「…お前さ、───…」 お前は何がしたいんだ。 言いかけて止める。 あの掲示板の写真を撮ったのがこの男だという証拠はどこにも無い。 周囲の人間は高坂の去就についてへの関心しかないらしく、あの写真が何の目的で、誰の手によって撮られ、作られ、貼りだされたのかということは少なくとも住吉が知る範囲では噂にも上らない。 住吉自身もまた、もうそんなことには興味は失っている。 住吉にとっては、高坂が目の前から居なくなったことだけが今の全てだ。 ただ───もし、あの写真を貼り出したのが今隣に座る男ならば、真意だけは確かめておかなければいけないだろうという意識だけは存在していた。 それでも口を噤む。 谷地の反応を見ると、変わらない笑顔が一瞬だけ真顔になった。視線を上向かせて軽く髪を掻く。普段であれば少しだけ近過ぎる距離に座る男は、今日は他の社員と変わらない距離を保っていた。 「…あのさ、…あの写真、貼った犯人がわかったら、智洋は、どうする…?」 客観的に見ると脈絡のない問いかけだ。 だが、二人の間にはこの話題を出すことはなんら不自然では無い。 住吉は表情を変えずに、谷地を見据えた。 「許さない」 「……」 「…誰かわからないけど、…誰であっても、……俺は、絶対に許さない、」 谷地の形の良い目が少しだけ瞠目し、そしてすぐに細く弧を描いた。そう、小さく呟いて肩を上下させて息を抜く。犯人、と自ら口にしたその言葉を見つめるようにじっとテーブルの上を見やった後に一つ頷いた。 「…俺はねえ、…それが聞きたかったよ。ずっと、」 テーブルの上に載せるように、住吉にだけ届く声で発し、席を立つ。向けられた背中はもう二度と住吉を振り返らず、谷地は別の席へと映っていった。

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