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第7話 にーちゃんの夢

 夢を見た。にーちゃんの夢。  にーちゃんは本当にたまに、独りで泣いてる事があった。理由は知らない。夜中、目が覚めて、なんだか不安な気持ちになってにーちゃんの部屋に行くと、にーちゃんがベッドに背中を預けて、床に体操座りして泣いてるんだ。にーちゃん、って声をかけると、ビクって顔を上げて、「アキト」って言いながら涙をごしごし拭った。 「にーちゃん、辛いの?」  隣に座って、にーちゃんの頭をいつもしてくれるみたいに撫でると、にーちゃんは困ったように笑って、大丈夫だよって撫で返してくる。 「にーちゃん、いい子いい子、おれのぬいぐるみあげるから、泣かないで!」  まだ子供だったおれはそうする事ぐらいしか出来なくて、「アキト、いいんだよ」って言ってるにーちゃんの為に、とてとて自室に戻って、お気に入りのクマのぬいぐるみを持って来て、にーちゃんに差し出す。にーちゃんは困ってたけど、ありがとうって受け取ってくれた。  どうして泣いてるのかは教えてくれなかったけど、にーちゃんがそうして泣いている度に、おれは大事な物をにーちゃんにあげた。クマのぬいぐるみ、ヒツジのぬいぐるみ、ネコのぬいぐるみ……(思えばおれの部屋は男の子なのにぬいぐるみでいっぱいだったなあ)、それで、にーちゃん大丈夫だよ、泣かないでっていつもにーちゃんがしてくれるみたいに、背中や頭をぽんぽんした。そうしてもらうと安心出来たから、にーちゃんも落ち着くんじゃないかと思った。  だけどにーちゃんはやっぱり時々泣いてたし、ふっと悲しそうな表情をしていた。あんまり効果は無かったみたいだ。だから、いつか大きくなったら、にーちゃんを守ってあげるんだって思った。強くなって、優しくなって、大きくなって、にーちゃんを安心させてあげるんだって。どの辺でその方向性がズレちゃったのか判らないけど、それが兄に向けるソレから恋愛対象に向けるソレに変わってしまい、ついでに若気の至りでやり方を間違えてしまった。守ろうと思ったにーちゃんを泣かせてしまったのはおれにとってショックで、だから今度は失敗はしたくない。  きっとおれは幸せだ。だってあんな事があったのに、にーちゃんの傍に居られるんだから。今までずっと会えなかったのに比べたら、ずっとずっと幸せだ。  もっと、と思うのは欲張りなのかな。だから人は幸せになれないのかもしれない。にーちゃんはなんで泣いてたんだろう。おれにはにーちゃんを守れないのかな、この気持ちが通じる事は有るのかな……。

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