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第3話

「ほら、タオル。下、着替えなさい、風邪を引くよ、シャワーも使っていいから」 本郷はタオルと着替えのスエットを司に渡す。 「部長の方が濡れてます!俺のせいですよね?俺が濡れないように」 司は借りたタオルで本郷を拭く。 「脱がないと風邪引いちゃいますよ」 司は本郷のスーツを脱がそうとしてハッと我にかえる。 「すすす、すいません!俺ってばセクハラ行為を」 慌てて本郷から離れた。 「なんだ、やめちゃうのか?つまんないな、それより上がりなさい。何時までも玄関ではますます風邪を引いてしまう」 「でも、濡れてるから」 足が濡れている事を気にする司。それに気付いた本郷は前かがみになるとヒョイと司を肩に担いだ。 えええ!!! いきなりな行動に司は驚いて言葉が出なかった。 「これならいいだろ?」 本郷はそのまま浴室へ連れて行く。 「足、温めた方がいい」 そう言ってシャワーを出す。 司は靴と靴下を脱ぐとシャワーを借りた。 本郷はその間に着替えたようで戻ってきた。 戻ってきた本郷を見て司は一瞬誰?と思った。 「部長……前髪下ろすとかなり若いですよ?大学生くらいに見えます」 本郷がセットされた髪を下ろしていたのだ。 「大学生は言い過ぎだな」と本郷は笑う。 「コーヒーいれるから着替えたらおいで」 そう言い残し先にリビングへ。 司が戻ってくるとホットコーヒーがおかれていた。 「少し身体が冷えただろ?」 昨日はアイスコーヒーで今日はホット。なんか優しいなと思う。傘を自分に向けてくれたのも嬉しかった。 「君は物知りだな」 突然言われてキョトンとなった。 「俺の名前だよ、意味も知ってるから驚いた」 「面接受けた時に名刺貰ったでしょ?名前みて綺麗な名前だなって。俺、子供の頃友達いなかったんで本ばかり読んでたんです。なりがこんなんだから外人って言っていじめられてて日本語話せないだろーとか言われて悔しくてそいつらより綺麗な日本語を話してやるって本ばかり読んでました、その読んだ本の中に翠雨ってあって」 「君らしいな。どうして少し違うだけでいじめようとするのか俺にはわからんよ、君の髪の色綺麗だし、瞳の色も綺麗だろ?昨日みて思ったよ、綺麗な鳶色」 そう言って本郷は司の頬に触れた。 「綺麗って言われたの他人では部長が初めてです。うちの親は綺麗って言ってくれてましたけど」 「皆、勿体ないね、こんなに綺麗なのにいじめたりするんだから、君の名前もいいなって思うよ?」 「初音ですか?」 「そう、季節の最初の鳴き声だろ?」 「さすが部長物知り……」 そう言ったあとに本郷にキスされた。 驚いたが突き飛ばしたりはしなかった。 「逃げないんだね」 「俺……綺麗なものは好きですよ、綺麗な言葉とか風景とか名前とか」 「俺の名前?」 「俺、雨好きなんです」 「それって手を出していいってことかな?」 「部長の判断に任せます」 「女の子の誘いは断ったのに?」 「それ、今言います?」 「俺も好きだよ綺麗なもの」 そう言って本郷はまたキスをした。 「雨が止むまでの間いい?」 「止んでも……お願いします」 司はそう言って本郷を受け入れた。 梅雨は楽しくなりそうだ。

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