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これは経費で落ちますか?
◆◆◆
気温30度越えの中、オフィスのエアコンが壊れるという恐ろしい事になってしまった。
しかも、修理に来てくれる業者が「すみません、この時期って何故か一斉にエアコン壊れるんですよ、なので修理に行けるのは最低でも4日かかります」と悪夢かのように言われたのだ。
窓を開けて扇風機回しても暑い空気は扇風機を温風機という恐ろしい兵器に変えてしまう。
司もグッタリとしていた。
彼は体温が高いせいで夏の暑さに弱いのだ。
「こーなったら涼しい会話しよう!」
誰ともなくそう言い出して「あー、海行きたいなあ」と他のスタッフが続ける。
「青い海、可愛い女の子!西瓜割りにビール!!いいよなあ」
「あー、次の休み糸島行こうかな?なあ、司、行かない?」
司に声を掛けてきたのは同期の男性。
「海……?あー、行きたいかも。エメラルドグリーンとか見てみたい」
「糸島にエメラルドグリーンを求めるな、じゃあ行く?お前、見た目いいから女の子が向こうから来るから助かる」
女の子と聞いて、司はナンパしに行くのかな?と思い「あー、やっぱ行かない、俺、肌が白いから太陽にあたると真っ赤になって火傷したみたいなって痛くて終わるから」と返事をした。
「太陽に弱いって吸血鬼かよ、日焼け止め塗ればいいだろ?行こうぜ?」
肩をガッツリ掴まれて揺すられる。
いくら行かないと言っても執拗い。
「司、ちょっとこい」
ふいに名前を呼ばれて声がした方を見ると上司の本郷部長がオフィスのドア近くで手招きをしている。
本郷は外出していたのだがいつの間にか戻ってきていた。
彼の姿を見たスタッフは一斉にビシッと背筋を伸ばす。
司に海に行こうと煩かった同僚まで真面目な雰囲気になってしまった。
呼ばれた司は本郷の方へと行く。
「手伝ってくれ」
それだけ言うと本郷は先を歩く。司も後を追うと給湯室に着いてしまった。
「悪いな、全員分作ると大変なんだ」
本郷はそう言いながらアイスコーヒーを作り始める。
「えっ?やりますよ!」
司は慌てた、まさか上司自らコーヒーをいれるなんて!と。
「だから一緒にやっているだろ?」
司の慌てぶりにクスリと笑う本郷。
「そうですけど」
そう、返事しながらもなんか違う?とも思う。
「気温高い時にエアコン壊れてしまって申し訳ないだろ?皆、暑いのを我慢してくれている」
「それは部長もですよ?」
「そうだな、……司、口を開けろ」
そう言われて司は素直に口を開けた。自分の言葉に素直に口を開けてしまう司を見て無防備で可愛いと笑いが出そうになるが我慢して彼の口の中にあるものを入れた。
司の口の中に甘いものが広がる。
「あまい……何ですか?あれ?黒糖?」
舌で味わうと食べた覚えのある味だった。
「そう、黒糖。ミネラルとカリウム入ってるから熱中症対策になるぞ」
本郷はそう言いながらアイスコーヒーにも黒糖を入れている。
「あー、知ってます、珈琲に黒糖入れると美味しくなるんですよね、祖父が好きで良く珈琲に入れてましたもん」
「そうそう、深みがでる」
「……それにしてもこの黒糖美味しいですね?どこのですか?」
司が今食べている黒糖は食べた事があるものと味とかたさが違うと思った。
「俺の実家の」
「えっ?実家?部長の実家って何してるんですか?」
「黒糖作ってる」
「へえ……あ、そうか、前に何度か部長の部屋で飲んでた珈琲にも黒糖入ってたんですね、美味しかった」
司はニコッと微笑む。
実は司は、本郷の住むマンションへ行った事があるのだ。その時にご馳走になった。
「ありがとう。実家から沢山送られてくるから」
「部長ってどこ出身ですっけ?沖縄?」
黒糖と言えば沖縄のイメージなのだろう、司は沖縄を口にする。
「違うよ、奄美大島」
「奄美……奄美って西郷どんが流されたとこですか!!」
司の目がキラキラしている。
「何?歴史好きなのか?」
「いえ、大河ドラマ見てて」
「ああ、やってたな」
「はい。それで見てて、海が綺麗だなって、エメラルドグリーンの海」
司はまるで子供みたいに言う。
「見たいのか?エメラルドグリーン」
「はい……でも、博多湾汚いしな」
少ししょんぼりする司。そんな司を見て、本郷は「じゃあ、連れていってやる」と言った。
「えっ?」
司はもちろんキョトンとするのだった。
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