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3話
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海岸沿いを過ぎると少しづつ民家や建物が見えてきて、市内地へと入ってきた。
「部長!あの模様って大島紬 ですよね?建物に模様があるってなんかお洒落ですね」
司が指さす先に白い3階建ての建物に模様が描かれている。
「ああ、龍郷柄 だよ、紬の定番の模様。ここが龍郷町って言って紬の発祥の地って言われてる」
「そうなんですね、あ!凄い硝子窓にも模様がある」
司が珍しそうにキラキラした目で見ている建物の前で車が止まった。
「挨拶してくるから、兄貴は司と待ってて」
本郷が降りようとすると司が「挨拶?部長のお友達とかですか?」と質問をする。
「いや、取り引きの会社」
「えっ!!だったら自分も挨拶行きますから」
司は慌てて車から降りる。
「いや、司は車で待ってた方がいい」
「ダメです。仕事でしょう?」
司はドアに向かって歩き出すので本郷も仕方なく建物へ。
入口を開けようとすると、勝手に開いて中から男性が顔を出した。
「よお!本郷」
本郷を見て気軽に挨拶を交わす男性はガタイが良くて褐色肌。それになかなかの男前。
「やっぱ、出てきたな」
本郷は何故だか嫌そうな顔をしていて、司には不思議だった。取り引き先の相手だよね?と。
「君、本郷の部下?」
男性は司を見て微笑む。
「はい。司初音 と申します」
司はポケットから素早く名刺を出して渡そうとするが本郷に阻止される。
「コイツに名刺渡さなくていいから」
「えっ?でも?」
「うん、名刺より君のLINEとか番号がいいな」
ニコッと微笑む男性は仲村と名乗った。
「ば、番号ですか?」
司はスマホを出して素直に教えようとするがそれも本郷に阻止される。
「司、やっぱお前、車に戻っていろ」
「えっ?お、俺失礼な事しましたか?」
本郷の言葉に司は焦る。
「失礼なのはコイツだから」
本郷は仲村を睨む。
「えー、いいだろ?番号くらい。司くん可愛いし」
「うるさい、仕事戻れ」
本郷は仲村の背中を押して中へと押し込む。そして耳元で「司に変な事したらどうなるか分かってるよな?」と小声で言う。
「俺とお前ってタイプかぶるよな、司くん、かなり俺のタイプ」
「いっぺん死んでこい」
そう言うと仲村を押し込み、ドアを閉めた。
「司、帰るぞ」
その場に立ちすくむ司の肩をポンと叩く。
「えっ?いいんですか?」
「いいんだ!」
本郷は司の手を掴むと車へ戻る。
後部座席へと乗り込むと「あの、俺、やはり来なかった方が良かったかもですね」と表情が沈んでいる。
「あー、仲村の洗礼受けたんだ?気にしなくていいよ?アイツ、司くんみたいな綺麗な子が好きで直ぐに手を出しちゃうんだよ」
春霖が車を発進させながらに言う。
「えっ?」
「アイツとは幼なじみなんだよ」
本郷もそう付け加える。だから失礼になんてあたらないし、気にしなくて良いと。
「今後、アイツが色々言ってきても素直に番号とか個人情報は教えるなよ」
本郷に言われて司は「はい」と素直に返事をした。
「司、腹減ってるだろ?鶏飯食べに行こう」
「鶏飯ですか?はい。食べたいです」
その場の雰囲気を変える為に本郷は提案する。その提案に嬉しそうに返事を返すのでホッとした。
司は見た目派手なのに、真面目で素直で本郷は心配だったのだ。
明らかにナンパ目的な仲村の誘導に素直に引っかかる。奄美に連れて来たかったのは本当だが彼には会わせたくは無かった。
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