12 / 96

二秒で交換

 体育祭はリア充の、リア充による、リア充のための祭りだ。だから、リア充だけが競技に出場したらいい。リア充じゃなくたってでたい人だけがでたらいい。小さい頃からずっとそう思っていた。どうして、スポーツが好きじゃない人もなにかしらでなくてはいけないのだろう。完全に足手まといで、クラスメイトから白い目でみられるのに。ますますリア充たちと溝が深まるのに。つまり、なにが言いたいかというと、俺は体育祭が嫌いだ。体育祭滅びろ。  六月某日、体育祭日和の晴天。といっても、百花はド級の金持ち校だからアーティストがライブをするような場所を貸し切って体育祭を開催する。雨だろうと槍がふろうと体育祭は必ず開催されてしまう。スポーツ嫌いの俺にはつらいことこのうえない。  だからといって、サボったら兄貴に心配される。「どうした旺二郎、具合悪いのか? 無理しなくていいからな」きっと本気で兄貴は言ってくれる。仮病だとしても、どうして俺が仮病しているのかを真剣に考えてくれる。罪悪感で死にそうになるからなるべく仮病はしたくない。はぁ、ほんと、体育祭滅びてくれ。  トイレの鏡を見つめると、思ったよりげっそりした顔が映っていた。 「……旺二郎、大丈夫か? 顔色がよくないみたいだ」  兄貴のことを考えていたから妄想が目の前に現れたのかと思ったけど、ほんものだ。ほんものの兄貴だ。  俺たちが似ているという人もいるけれど、ちっとも似ていない。似ている部分といえば褐色肌のところだろうか。俺はストレートだけど、兄貴は天然パーマだ。ふわふわした黒髪は猫っ毛でやわらかい。なにより兄貴は品があるのにセクシーだし、とにかくカッコいい。女子だけじゃなくて、男子にも人気がある神谷一志(かみやかずし)先生は俺の自慢だ。  いつもは教師らしくビシッとスーツを着こなしているけれど、今日は黒のジャージ。兄貴はどんなものでも似合うなぁ。すごい。だけど、インナーのTシャツがほんのすこし乱れている。しっかり者の兄貴が珍しい。よく見ると、頬もほんのりと赤い。褐色肌だからわかりにくいけど、俺はわかる。だってブラコンだから。なっちゃんに「おうちゃんってカズちゃんガチ勢だよね」とよく言われるけどなにが悪いんだろう。 「兄貴こそ具合悪そうだよ」  わざわざ一人暮らししないで、うちに帰ってくればいいのに。うちからのほうが近いし、ばあちゃんも喜ぶのに。なにより俺が嬉しい。本音を飲み込んで、兄貴の顔を覗き込むと、兄貴はまばたきをしてから、優しく笑った。まばたきのたびにまつげが揺れる兄貴は、自分の兄ながら美しいとため息がこぼれそうになった。

ともだちにシェアしよう!