「いつも以上に冴えない顔をしているな。なにがあった、聞いてやる」 　いつも以上にさえない顔。みっちーのその言い回しにひどく安心する。みっちーにはいつも俺が「さえない顔」に映っている。それをはっきりと言いきってくれる。嘘をつかないみっちーの姿勢に心底ほっとする。 「……なっちゃんが、俺は上野四信よりまぶしくなれるって言うんだ。そんなわけないのに。俺なんてそのへんに転がっている石ころなのに」 　ぽつりぽつりと呟きながら、階段を降りていく。 　もうすぐアリーナにつく。徒競走を終えた上野四信とすれちがったらどうしよう。どうか上野四信がこの階段をとおりませんようにと祈りながら、俺の先を行くみっちーの背中を見つめる。いつ見ても後光が差しているようだ。みっちーもまた、俺とは対極にいる。頂点が似合うみんなの王様。 　みっちーが俺のほうへ振り返る。まぶしい。美しい。どこまでも自信に満ちあふれた顔で、みっちーは鼻で笑った。「お前は馬鹿だな、旺二郎」うん、俺はバカだよ。みっちーに言われるとものすごく説得力がある。 「この世には二種類の人間がいる」 「にしゅるい」 「俺様とそれ以外。つまり、俺様に言わせたら旺二郎も上野も石ころだ」 　俺も、上野四信も、石ころ。あの上野四信が石ころ。みっちー以外が石ころなら、みっちーが愛してやまない渋谷歩六さえも、石ころなのか。 「……渋谷歩六も、石ころなの？」 「ああ。あいつだって石ころだ。俺様以外みな石ころだ。だが、俺様は石ころを愛すぞ。だから旺二郎、お前は石ころなりにあがいてみろ。うじうじ考えるくらいなら石ころらしく転がっておけ。俺様がいくらでも助けてやる」 　ああ、もう、みっちーは、ほんとにブレない。いつだってみっちー節だ。正直みっちーの言っていることは半分もわからない。それなのに、救われた気分になる。うじうじ考えているのがバカらしく思える。 　俺は石ころ。上野四信も石ころ。なっちゃんも、いっちゃんも、みっちー以外はみんな石ころ。だったら、石ころなりにあがいてみよう。無理そうだったら転がってしまえばいい。みっちーがなんとかしてくれる。 「みっちー、ありがとう」 「礼を言われる筋合いはない。俺様は当たり前のことを言ったのみだ――旺二郎、輝いてみせろ。お前は石ころだが、磨けば光る石ころだ」 　言い回しはぜんぜんちがうけれど、なっちゃんもみっちーも、同じことを言っていることに、俺はようやく気がついた。なっちゃんにもありがとうと言わなくちゃ。俺、みがけば光るタイプの石ころだからがんばってみるよってなっちゃんに言わなくちゃ。 「……うん、石ころなりに頑張る。とりあえず借り物競争で三位以内を目指してみる」 「目標が低い。一位を狙え一位を」 「いきなり一位はハードル高い」 　まずは三位くらいがちょうどいい。それからゆっくり上がっていく。いけたら、いいな。 　小さく拳を握る。俺なりに気合いをいれ、アリーナに立つ。大丈夫、アリーナにいるのも、観客席にいるのも、みんな石ころ。だから、俺は頑張れる。