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二秒で反則
好感度はマイナスだった。ついこの間までは。それなのに、どうしてだろう。ラインを交換したあの日から上野四信と毎日トークしている。体育祭のとき「毎日ラインしてもいいか?」と聞かれて「それはいやです」と即答で言ったはずなのにおかしい。
おはようからおやすみまで、俺たちは彼氏彼女か? と疑問に思うほどトークしている。「おーじろー」から始まり「なんですか」と返し「呼んでみただけー」なんて言われたりして。バカップルか。そんな甘さはないけど、バカップルみたいに内容がない。だけどそれがいやじゃない。義務的に返しているわけでもなく、ぽんぽん会話が続いてしまう。上野四信とのトークは正直言って楽しいのだ。きっと、上野四信はこうやって俺以外の人も楽しませている。それは、ちょっと、いやだ。どうしてだか、わからないけど。まぁ、つまり、好感度はマイナスからスタート地点くらいにはなった。
「おうちゃーん、どこ行くー? とりま無難に体育館でも行っとく? ちるちるといっくんは体育館行くって言ってたよ、ちるちるネットワークによるとちゃんしーパイセンとあゆさんが体育の授業でバスケしてるらしいから」
体育館に行くのめんどくさい。そう思っているのがたぶん顔にでていたのだろう、なっちゃんはやれやれとわざとらしく肩をすくめる。「スケッチのテーマはスポーツ! それなら体育館が一番それっぽいっしょ! 美術室なうは俺たちだけ、みんなさっさとスケッチするために移動してるし、俺たちもとりま動くべし」
美術室をぐるりと見渡すと、たしかに先生、俺、なっちゃんしかいなかった。
美術室の窓からテニスコートを眺めたり、グラウンド見たり、そういうのじゃだめなの。それもスポーツでしょ。体育の授業で無双している上野四信とか、俺の目がつぶれる。まぶしすぎて。そこに渋谷歩六もいるんだろ。無理。しつこくラインを聞かれるかもしれない。
肩にぽんっと優しい重み。なっちゃんの手だ。いつもなっちゃんは優しい。人にむやみやたらと触れられるのは嫌いだけど、なっちゃんの手は好きだ。なにも言わず、ただ俺に寄りそってくれる優しい手。
「なっちゃん、俺の目がつぶれそうになったら」
「俺が塞いであげようねー」
「ありがとうお母さん」
「もーおうちゃんったらいつまで経ってもマザコンなんだから」
いっしょうマザコンでいいよ。なっちゃん離れとかぜったい無理。
心の中でそう呟きながら、重い腰をあげる。いざ、リア充たちの巣窟・体育館へ。
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