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「旺二郎ー、七緒ー、なにしてんだよサボりかー」
試合を終えた上野四信が、ぶんぶん大きく手を振りながら俺たちのほうへ走ってくる。さっきまでの猛禽類感はどこへやら、すっかり毒が抜けた笑みを浮かべているのだから、上野四信という男がさっぱりわからない。
「ちゃんしーパイセンが授業でバスケするって情報キャッチしたからサボっちゃったーやっぱちゃんしーパイセンちょーカッコイイっすね、惚れ直しちゃう!」
語尾にハートマークをつける勢いでチャラけた調子で言うなっちゃんに、上野四信はますます笑みを深める。「コートの上が俺の場所だからなー、カッコイイに決まってんだろ」上野四信がわざとらしくウィンクを飛ばす。俺たちに冗談として受け止めてほしかったのかもしれない。それでも、俺にはそれが冗談には聞こえなかった。コートの上で、あんなに真剣にバスケをしているあんたを見て、冗談だと思えるはずがない。
「旺二郎はなーに黙ってんだよ、俺に惚れたか?」
上野四信の腕が俺の肩に回る。いつもと同じ仕草なのに、いつもと同じ軽口なのに、おおげさに肩がはねてしまった。どうにかごまかさなきゃ。どうやって。どうしたらいい。「惚れません」けっきょく早口でまくし立てるほかなかった。
「旺二郎もっと素直になってもいいんだぜ、七緒はこーんなに可愛いのによー」
するりと上野四信の腕が俺の肩から離れ、なっちゃんの肩に回った。なっちゃんはへらりとやわらかい笑みを浮かべる。「俺がかわいいのは常識ですー、だけどおうちゃんはもーっとかわいいからね」冗談に冗談で返す、二人のやりとりはどこまでもはずむ。
どうして、なっちゃんの肩に腕を回すんですか。言葉がこぼれそうになり、口を閉じた。前だったらやっと離れてくれたとほっとひと息ついただろう。だけどいまはどうだ。さみしい、なんて思ってしまっている。
上野四信となっちゃんが楽しそうに話している姿なんて、なんどもなんども見てきたのに、どうして世界でひとりぼっちみたいな気分になるんだろう。
「まあ旺二郎はなかなか思っていることを口にだせねえとこが可愛いんだよなー」
べつに、かわいくない。俺はどこもかわいくない。
そう言うよりはやく、上野四信の手が俺の頭を撫でる。子どもにするみたいに、優しく。俺は子どもじゃないとか、そういうのやめてくださいとか、口にしてやろうと思ったのに、上野四信の優しい瞳を見ていたらどうしたって言えなくなる。
なんで、そんなに俺に優しくするんだよ。あんた、バカなのか。俺はなっちゃんみたいに素直じゃないし、可愛げのない後輩なのに。
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