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「……俺はあんたやなっちゃんみたいになれないです」  頑張りたいとは思う。だけど、どうあがいても頑張れないこともある。近づいてきた上野四信にぶんぶん手を振り返したり、冗談を返したり、きっと、そういうことは俺にはできない。そのかわりになにができるか。ない頭で考えて、考えて、スケッチブックをめくり、やぶいて、視線を下げながら上野四信に一枚の絵を押しつけていた。チームメイトに指示をだす上野四信の絵。一番上野四信らしいと思ったから。 「だから、俺は俺のことやり方であんたと関わります」  上野四信はぽかんと口を開いてから、俺が押しつけた絵にゆっくり触れる。宝物のように、優しく。どこまでも黒い瞳には俺の絵がどう映っているだろうか。勝手に描かれて気分悪いとか言われたらどうしよう。やっぱり返してもらおうかと視線を上げる。  えっ。思わず声にでそうなほどに、びっくりした。だって、あの上野四信が、困ったように眉を下げている。頬を赤く染めている。俺の絵を見つめて照れくさそうに、だけど嬉しくて幸せでたまらないと、指先を震わせている。そんな反応されたら、俺だって嬉しくなってしまうじゃないか。 「……こういうのずるいわ、旺二郎、いつもは俺のことなんてどうでもいいって顔してるくせによ、こういうことするとか、マジずりいから。そういうの反則」  赤くなった顔を見られたくないのか、めずらしく俯いてぼそぼそとしゃべる。いつもハキハキしている上野四信が、ぼそぼそ。かわいいの四文字が頭によぎってしまい、振り払うように頭をふった。 「つーか、旺二郎絵うますぎだろ! 技術はもちろんだけど、今にも動きそうで、紙から飛びだしそう。あー、語彙力ねえけどこの感動伝わってる? すっげー嬉しい、ありがとな。これ飾ってもいい?」 「語彙力なんて俺もないし、あんたの顔を見ていたらなにもかも伝わってきます……あんたにあげたんだから、好きにしてください」 「なんだよ旺二郎ツンデレかー可愛いやつ!」  すっかりいつもの調子に戻った上野四信にわしゃわしゃと頭を撫で回される。  なっちゃん、この人止めてよと振り返る。あれ、なっちゃんがいない。さっきから静かだと思ったけど、どうして。俺と上野四信を仲良くさせるために二人きりにしてくれた?  視線をめぐらせると、なっちゃんはみっちーといっちゃんコンビと一緒に話していた。最初からそこにいたように笑っている。どうしてだか、ひどく安心して、また視線を上野四信に戻した。 「……あんたも、意外と」  かわいいですよね。そう口からすべりそうになって、慌てて止める。俺、なに言ってるんだ。意味わからない。 「意外となんだよ? そこでやめると気になるだろ。旺二郎って焦らすよなーエッチだわー」  えっちじゃないです。そこだけは即答した。だけど、予想より大きい声になる。「なになにー神谷はむっつりドスケベだって話かー? シーノブ、俺もまーぜろ」さいあくだ。えっちという単語に渋谷歩六がほいほいされてしまった。

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