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「はいはい歩六ちゃんはちょっと黙ってよーな」  渋谷歩六のじゃれつきに慣れているのか、上野四信はあしらう。だけど、渋谷歩六は一歩も引かず、俺と上野四信の肩に腕を回す。さいあく。こいつには触られたくないのに。 「黙らねえってのー、だって俺、神谷と合コン諦めてねえからな!」  げっ。まだそんな話してるのか。合コンってコスパ悪いし今時流行らないよねっていっちゃんが言ってたけど、きっと渋谷歩六には通じないだろう。  俺の顔を覗き込んだ渋谷歩六はギラギラした瞳で俺を見る。「マジ一回でいいから! 俺とー、シノブとー、神谷とー、そうだなー、やっぱ本郷だな。その四人で合コンしよーぜー俺がセッティングするし! インハイ出場おめ合コンどうよ!」どうよって言われても。はぁ、いやですとしか。そっと渋谷歩六から目をそらすと、肩に触れていた腕が離れる。というよりも、強制的に退かされた、のほうが正しい。上野四信が、助けてくれた。 「インハイ出場おめって旺二郎と七緒に関係ねえだろーバスケ部の後輩二人捕まえるから諦めろ」 「いーやーだー神谷がいたらもっといい女来るだろ! 客寄せパンツ的なー」 「それを言うなら客寄せパンダだしよ」 「えっマジ? すっげーエッロいパンツ履いて客集めることだと思ってたわ」 「よしよし歩六ちゃん、ちょっと黙ろう」  客寄せパンツ。あまりにも渋谷歩六らしいワード。客寄せパンツにはなりたくない。  いますぐ逃げてしまいたい。だけど、上野四信が俺のために必死になってくれている。どうにか俺が合コンに参加しなくてもいいようにしてくれている。そんな姿を見せられたら、逃げるわけにはいかなかった。 「……なっちゃんがいいなら、俺も行きます」 「マジ?! 神谷ったら話わかるやーつ! 本郷とっつかまえ……あとでラインしよ」  渋谷歩六はぱあっと顔を明るくしてなっちゃんを探すも、じょじょに眉間にしわが寄る。なぜ渋谷歩六がそんな反応するのだろうと視線をたどると、なっちゃんはさっきと同じようにみっちーといっちゃんと話している。いつもの光景すぎて安心する。だけど、渋谷歩六は顔を歪めている。もしかして、体育祭でみっちーをお姫様抱っこしたから? みっちーがいると気まずい的な? あれは体育祭一盛り上がった気がする。 「旺二郎、マジでいいのか?」  こそっと上野四信が耳打ちしてくる。まえだったら、上野四信からの耳打ちとかほんと無理だったのに。いまはいやじゃないし、むしろ嬉しい、かもしれない。 「……あんたがいますし、大丈夫です。たぶん」  もちろん行きたくない。合コンなんて行ったところでなんにも始まらない。始まりたくもない。だけど、上野四信がいる。なっちゃんもきっといる。それなら、どうにかたえられる。  上野四信は俺の言葉にまばたきを繰り返し、すこしはにかんだ――あんたこそ、ずるい。反則だ。いつもはバカみたいに明るく笑うくせに、そうやってはにかむとか、ずるいだろ、どう考えても。頭によぎった四文字を振り払うために、上野四信から視線をそらした。

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