31 / 96

10

「主役は遅れて登場ってな! どーも、俺こと上野四信とこっちのイケメンは神谷旺二郎でーす、よろしくー」  どこもイケメンじゃないですけど。  じろりと上野四信を睨んだのに、ばっちりスルーされる。むしろ女子大生たちに「マジ国宝級イケメン!」「神谷くん目の保養すぎでしょー」といじられる。言わせてすみませんと心の中で謝りながら、ドリンクをテーブルに置く。  俺、どこに座ったらいいんだ。どこに座っても地獄しかない。なっちゃんどうしてこんなときに歌ってるんだろう。好きなものサンドイッチじゃないでしょ、パンケーキでしょ。なっちゃんのバカと言いたくなるけど、言えない。だって、なっちゃんは空気が悪くならないように必死になって、だけど必死さをちっともださないで頑張っている。合コンにおいて俺が使い物にならないことをなっちゃんは理解して、俺の分まで女子大生たちを盛り上げようとしてくれている。そんななっちゃんを責められるはずがない。 「おーじろ、七緒の美声にうっとりするのもわかるけどとりあえず座っとけ!」  上野四信に腕を引かれ、そのままとなりに腰を下ろす。とりあえず、上野四信のとなりに座った感をだしてくれる気遣いはほんとにすごい。なっちゃんも、上野四信も、これぞモテ男の鑑。その点渋谷歩六がなぜモテるのか、みっちーがどこに惚れたのか、さっぱりわからない。女子大生の腰に腕を回して、耳元でなにか囁いている姿は、どう見ても盛りのついた雄でしかなかった。 「四信くんはあゆくんと同じバスケ部なんだよね? 身長高いし旺二郎くんも?」  上野四信のとなりで透明人間になれたらいいのに、なんて思っていたのがバレたのか、派手な顔をした女子大生に思いきり話をふられる。渋谷歩六のとなりにいるんだから、わざわざ俺に声をかけなくてもいいのに。 「……俺は帰宅部です。運動は得意じゃないです」 「おい神谷、借り物競走で一位取ったくせに得意じゃねえは嘘だろ!」  借り物競走に運動神経は関係ないと思います。  心の中で渋谷歩六にそう返す。「つーか神谷のお題はなんだったわけ? シノブ連れて行ったよな?」いまそれを聞くのか。合コン中だろ。俺に構わないで女子大生に構えてくれ。そう言いたくなったけれど、女子大生たちも興味津々で俺を見つめてくる。「お題の内容気になるーイケメンなバスケ部員とか?」「それならシノブくんにぴったりだね」高い声ではしゃぐ女子大生。答えないとこの会話は終わらないのだろう。さいあくだ。 「こればっかりは俺と旺二郎だけの秘密だからなー、ちょっと言えねえよな」  上野四信の腕が肩に回り「な、旺二郎」と俺の顔を覗き込んでくる。あんただって、お題の内容知らないくせに、どうして俺のこと助けてくれるんですか。そう言ってしまいたくなった。だけど現実の俺は小さく頷くことしかできなかった。 「はーシノブマジないわーケチだわー二人だけの秘密とかないわー」 「男の友情って感じでいいじゃん!」 「それな! 俺もそー思ってたとこ!」 「もーあゆくん調子いいー」  渋谷歩六からの猛攻が来るのかとビクついたが、女子大生の一言で体育祭の話は終わった。きっと上野四信のことだから、ここまで想定していたのかもしれない。小さく上野四信だけに聞こえるように「ありがとうございます」と呟くと、上野四信は優しく微笑んでから俺の肩から腕を退けた。離れていった腕に、さみしいと感じたのはきっと気のせいだ。

ともだちにシェアしよう!