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二秒で変わる

 アラームが鳴っていないのにすっきり目が覚めたなんて、なん年ぶりだろうか。あまりにも勢いよく起きられたことに自分が一番驚いている。アラーム鳴ってからももだもだと布団と格闘する俺が。遅刻ぎりぎりまで粘るあの俺が。ガバッと布団から起き上がり、さっさと制服に着替え、顔を洗って、いつもだったら気にしないであろう寝癖を必死に直している。早起きなんて大嫌いだったのに、どうしてこんなにワクワクしているんだろう。理由なんてたったひとつしかない。わかりきっていた。どう考えても四信先輩のせい――じゃなくて、四信先輩のおかげだ。 「旺二郎おはようございます、今日は早いですね」 「おはようばあちゃん。ちょっと早く起きちゃった」  台所でかぼちゃのお味噌汁をあたためるばあちゃんに挨拶をし、席につく。じとじと雨がふっていた六月が終わり、夏を感じさせるかぼちゃのお味噌汁。朝はやっぱりごはんだとしみじみ思っていると「旺二郎なんだか変わりましたね。とってもワクワクしているのが顔に表れているというか……とにかく素敵な表情になりました」ばあちゃんが穏やかに微笑んでいたからちょっとはずかしい気分になる。やっぱりばあちゃんにはなんでもおみとおしだ。 「……四信先輩って人がいるんだけど。その人、バスケ部で毎日頑張ってて。朝練前に自主練して、放課後の部活の後にも居残って、とにかく一生懸命なんだ。だから俺も頑張りたい、四信先輩みたいになりたいって思ったら、朝からワクワクしちゃって早く起きちゃった」  ばあちゃんはテーブルにほかほかごはん、かぼちゃのお味噌汁、卵焼きをだしながら、にこにこ俺を見つめてくる。ああ、もう、はずかしい。ばあちゃんの優しすぎる目がはずかしい。ごまかすように両手を合わせ「……いただきます」と言えば、ばあちゃんは「召し上がれ」とどこまでも優しく笑ってくれた。 「四信さんはもう自主練している頃なんですか?」 「うん」 「旺二郎も自主練におつき合いしてみたらどうかしら。そうしたらもっとワクワクする一日になりますよ」  自主練に、つき合う。そんな発想なかった。でも、せっかく早く起きたんだからそうするべきだ。というよりも、そうしたい。四信先輩の自主練を見て、その姿を目に焼きつけて、絵を描きたい。前までは落ち込んだときに描いていたのに、いまはちがう。四信先輩を描きたくてしょうがない。 「ばあちゃんってほんと天才。かぼちゃのお味噌汁もおいしい。四信先輩にも飲んでほしい」 「私も四信さんに会いたいわ、今度連れてきてちょうだいな」 「えっはずかしい」 「はずかしいことはないでしょう」 「だってばあちゃんにこにこするだろ」 「したらいけませんか」  にこにこ優しい目で俺たちを見るんだろ。はずかしい。想像しただけで火がでそう。だけど、ばあちゃんにはいつか会わせたい。四信先輩もだけど、なっちゃん、みっちー、いっちゃんたちも。「……今度連れてくるね」「楽しみにしてますね」はずかしいけど、ばあちゃんのにこにこした顔が大好きすぎて、あっさり負けていた。ばあちゃんおそるべし。

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