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「いーや、いまの旺二郎はつまんねーって顔してねえよ。毎日楽しくてしょうがねえって顔してる」
俺が女子だったら恋に落ちてもしょうがないくらいまぶしい笑顔で、俺の頭をぽんっと撫でる。破壊力がすごい。いつか、いっちゃんが言っていた効果は抜群って言葉がぐるぐる頭に回って離れない。それぐらいに、頭がくらくらする。ほんとにずるい人だ。
「……はい、毎日楽しくてしょうがないです」
たぶん、きっと、四信先輩のおかげ。
勇気のない俺は声にはだせず、心の中でそう呟いた。言葉にできないことは、スケッチブックにぶつけてやるとこっそり誓った。
「そういや旺二郎はコンクールとかださねえの」
「コンクール?」
「俺、旺二郎の絵すっげえ好きだから。コンクールだしてみるとかありなんじゃねって思って」
「……考えたこともなかったです」
ただ、四信先輩を描きたい。ひたすら四信先輩だけを描きたい。そんな衝動に突き動かされてひたすら描いていた。だから、コンクールなんて発想はなかった。万が一思いついたとしても、俺なんか無理だ、自信がない、たいしてうまくもない、そう言ってやる前から諦めていたはずだ。だけどいまはどうだ。四信先輩に好きと言ってもらえたことで、ほんのすこし自信がついた。
いまの俺なら、一歩踏みだせる気がする、変われる気がする。むしろ踏みだしたいし、変わりたい。頑張っている四信先輩と一緒に頑張りたい。
「コンクール入賞とかはちょっと無理かもしれないけど、石ころなりに頑張ってみます」
「石ころ?」
「みっちーいわく、人間は二種類しかいないんです。みっちーとそれ以外。みっちー以外はみんな石ころなんです。だから、石ころなりに頑張ります」
「三千留節すぎるわー、じゃあ俺も石ころらしく転がり続けるか」
四信先輩は俺の中では石ころじゃないですけどね。
面と向かってはそう言えず、ドリブルを再開した四信先輩をひたすらスケッチする。
コンクールにだすのなら、いつもみたいに鉛筆じゃなくて色をつけたい。油彩は時間がかかるし、あまりやったことがない。授業でほんのすこしやった程度。水彩なら小学生のときから授業で学んでいるし、道具もある。なにより時間がかからない。よし、今回は水彩にしよう。白黒だった四信先輩に色をつけたらきっと楽しい。だって、四信先輩はいつだってまぶしい。白黒じゃ四信先輩の魅力は表せない。
朝起きたときもワクワクしたけれど、いまはもっとワクワクしている。ほんとにばあちゃんはなんでもおみとおしだ。
ワクワク気分でスケッチブックを見つめていると、視線を感じる。四信先輩がものすごく楽しそうに俺を見ているから、すこし、いや、ものすごく、はずかしい気分になる。
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