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二秒で口づけ

 俺が四信先輩の自主練につき合うようになってから、なっちゃんがちょっとおかしい。表面上は変わっていないけれど元気がない、ような気がする。四信先輩の自主練を一緒に見ようと誘っても「ちゃんしーパイセンはバスケと向き合って、おうちゃんはそのちゃんしーパイセンを描くんだよね? 俺がいたら二人のやる気がそがれちゃうよ、念だけ送っとく!」いつもの笑顔でさらりと交わされてしまった。  はぁ。予想以上に大きなため息を吐いてしまったせいで、シュート練習をこなしていた四信先輩の手が止まる。「どうした旺二郎、なんかあったか?」ボールを手に持った四信先輩が俺のほうへ歩み寄る。四信先輩の練習を止めたくないのに、俺、なにしてるんだろう。 「……すみません、ため息なんて吐いて。練習続けてください」  思わず俯いてスケッチブックを見つめる。今日はちっとも乗らないから、筆がまるで進んでいない。せっかくコンクールにだすって決めたのに、構図も決まっていない。俺ってだめなやつだとまたため息を吐くと、四信先輩に思いきり顔を覗き込まれた。心臓が、止まるかと思った。びっくりしすぎて。 「ため息吐くと緊張がほぐれたり、リラックスしたりするらしいぜ。だから、ため息吐くこと自体は悪いことじゃねえ。でも、旺二郎はなにか悩みごとあるんだろ。だったら、その悩みごと吐きだしちまえよ、ここには俺しかいねえんだからよ」  四信先輩の手がぽんっと俺の頭を撫でる。  またそうやって俺を救ってどうするつもりなんだこの人は。どろどろに甘やかす気か。そのうち俺の体とけちゃうんじゃないか。それくらい、四信先輩は甘い。たぶん俺だけじゃなくて、みんなに。 「……なっちゃんがこの場にいたら、四信先輩は迷惑ですか」 「七緒? 迷惑なわけねえだろ、大歓迎」  大歓迎かぁ。俺だけじゃなくて、誰相手にも大歓迎っていうのかぁ。それはそれでちょっともやっとする。俺ってほんとわがままやろう。 「なっちゃんは俺たちのやる気がそがれたら困るから念だけ送っておくって言ってたんですけど、ほんとは四信先輩の自主練を見たいんじゃないかって思うんです」 「七緒がいるからって俺たちのやる気が削がれるわけねえのに。七緒はもっと違うことで悩んでるのかもな。あとでラインしてみるわ――旺二郎?」  ラインしてみると口にした四信先輩の手を思わず掴んでしまった。どうして掴んだのか、自分でもわからない。だけど、これは俺となっちゃんの問題で、四信先輩が入るとものすごくややこしくなる、そんな気がする。 「……きっとこれは俺となっちゃんの問題だから、四信先輩は俺のことちゃんと見ててください」  四信先輩が見てくれたら、俺は石ころなりに頑張れる気がする。  じっと四信先輩を見ると、四信先輩は俺の髪をくしゃくしゃと撫で回してから鮮やかにシュートを決めた。

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