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「……その、部屋が、散らかってるんだ」  うそだ。すぐにわかる。兄貴が俺の目を見ないのは、うそをついているからだ。やっぱり、彼女と同棲しているんだ。それを俺に気づかれまいと、どうにかごまかしている。  俺と兄貴のやりとりを見て、いっちゃんが小さく笑う。「すみません、続けてください」笑ったことをごまかさず、いっちゃんは兄貴を見る。そんないっちゃんを兄貴が睨んだ気がしたけれど、きっと気のせいだろう。 「兄貴綺麗好きだよね。部屋が散らかってることなんて一度だってなかった」 「も、模様替えをしていて」 「兄貴、うそついてるでしょ――もしかして、彼女と同棲してるの」  第三者であるいっちゃんがいるというのに、彼女という単語がこぼれてしまった。  兄貴はまばたきを繰り返し、いっちゃんはまた笑う。もういっちゃんほんと黙っててと無言で睨む。「ごめん、ちょっと堪えられなくて」いっちゃんはまるですべてを知っているかのように、兄貴を見つめる。 「僕の荷物が一志さんの部屋にあるから、旺二郎を呼べないんだよね」  ボクノニモツ。カズシサン。  いっちゃんがいじわるな笑みを浮かべながら言った言葉がまるで入ってこない。頭の悪い俺じゃちっとも追いつかない。兄貴だけがものすごく困ったように眉尻を下げ、口を開けたり閉じたり、頬を赤らめ、最後には「おい五喜」と聞いたことのない低い声でいっちゃんを呼んだ。まさかの名前呼び。つまり、どういうこと。 「一志さんは嘘が下手なんだからこれ以上誤魔化すのは無理でしょ。一志さんは彼女と同棲していないし、彼女はもちろんいないよ安心して。そのかわり、僕が一志さんの部屋に入り浸ってるけど」 「どういうこと」 「僕は一志さんを愛しているんだけど、一志さんはなかなか振り向いてくれないんだよね。だから、部屋に入り浸って僕がいかに一志さんを愛しているか伝えている。ここまでわかる?」 「わ、わからない」  ぜんぜんわからない。まず、兄貴は彼女と同棲していない。そもそも彼女はいない、ということはわかった。だけど、いっちゃんが部屋に入り浸っているって、どういうこと。それ以上に、いっちゃんが、兄貴を愛しているってなに。ぜんぜん、わからない。  助けを求めるように兄貴を見つめると、兄貴は忙しく表情が動く。照れくさそうにしたり、困ったり、怒ったり。俺が見たことのない兄貴をいっちゃんが引き出しているということだけは、わかった。 「……五喜はマンションの隣人で、いろいろ助けてもらったお礼に夕飯をご馳走している。隠していたつもりはないんだが、誤魔化して悪い。五喜が入り浸っている部屋でよかったら、今晩は俺の家に来てくれるか」  兄貴はじっと俺を見て、誠実に言葉をつづってくれる。いっちゃんが入り浸っているのは気にくわないけど、兄貴はなんにも悪くない。しっかり頷くと、兄貴はほっとしたように笑みを浮かべてくれた。「ありがとう旺二郎。こずえさんには俺からラインしておく、じゃあまたあとで」兄貴は俺たちに手を振り、教室からでていった――さて、いっちゃんに聞かなきゃいけないことがやまほどある。

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