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06
「七緒なら今日は休みだが、心配はいらん。あいつなりに考えがあるのだろう」
みっちーはそう言うと、席に着いた。
なっちゃんなりの考えってなに。みっちーといっちゃんにはわかるの。どうして俺だけなっちゃんを理解してあげられないんだろう。たしかにみっちーといっちゃんよりつき合いは短い。ものすごく短い。それでも俺は、なっちゃんのことをもっとわかりたい。もっと仲良くなりたい。
「ずっと空気を読んできた七緒が、初めて七緒の思うままに生きているのだと俺様は思う。だから旺二郎、お前もお前の思うまま生きろ。だが、中途半端だけはやめろ。やるならやる、やらないならやらないでとにかく振り切れ」
みっちーの言葉はいつでも道しるべのようにキラキラと輝く。さすが頂点に立つために生まれた男、みんなの王様みっちーだ。
「わかった。全力で四信先輩の絵を描いて、全力でなっちゃんのことも考えて、全力でいっちゃんの邪魔する」
「最後のはやめてくれないかな」
「五喜はこれでいて繊細なところがある。そっとしておいてやれ」
いっちゃんが繊細。そんなのうそだ。だって、あのいっちゃんだよ。そう心の中で呟きながらいっちゃんを睨むと、実に楽しげに笑っている。ちっとも繊細に思えない。だけど、みっちーは俺の知らないいっちゃんを知っている。つき合いが長くて、二人はほんとに仲が良い。だからこそ、みっちーはいっちゃんが兄貴を好きだってことも知っているだろう。
「いっちゃんも、みっちーも、恋してるんだね」
みっちーはいつでもだだもれだ。スマホの待ち受けは渋谷歩六だし、スマホの写真内に渋谷歩六フォルダがある。俺には女好きのクズやろうにしか見えない。みっちーには渋谷歩六がどう見えているのだろう。
それにひきかえ、いっちゃんはひた隠しにしていた。二人きりのときは一志さんと呼んでいるのだろうけど、俺の前では神谷先生と呼んでいた。教師と優等生、そんな関係に見えたのに。いっちゃんこのやろう。
机に突っ伏して二人を見る。二人がいつもキラキラまぶしいのは、恋をしているからなのだろうか。
「旺二郎も早く認めたらいいのに」
「むしろなぜ認めない。旺二郎、お前まだ気づいていないのか」
「なにを?」
「そうか、まだ気づいていないのか。それならそれでいい。自分で気がつくことに意義がある」
みっちー、なんで一人で納得してんの。俺にわかるように話して。意味わかんない。なんでサワヤカな顔してるの。「青春だね」「青春だな」いっちゃんとみっちー、見つめ合って微笑まないで。なんなのまったく。
けっきょく二人は俺になにも教えてくれなかった。自分で気がつくってなにを、どうやって。わけがわからない頭のまま、四信先輩に会って大丈夫だろうか。変なこと言っちゃったりしないかな。まぁ、とりあえず、昼休みまで寝よう。やるならやる、やらないならやらない。中途半端が一番だめなのだから。
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