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「えっ、ちょっ、旺二郎マジでどうした?!」
四信先輩の腕を掴んで、廊下を、階段を駆け上がる。通りがかった木場潤に「おー神谷弟に上野、青春してんなー」なんてのん気に言われる。
教師なら廊下を走るなが定番なのに、青春ってどうなんだ。思わず小さく笑いながら、みっちーといっちゃんの言葉を思い出した。青春だとやたらくりかえした二人。そうか、このワクワクした気持ち、触れられると、触れると、ドキドキするのは、青春なのか。
「放課後までつき合ってくれるんでしょ、時間もったいないから、走ろうかと、思って!」
階段を上がりながら、四信先輩のほうへ向く。声が上擦っている。しょうがない、走りながらしゃべるなんて芸は俺には向いてないんだから。それでもしゃべっていたかった、四信先輩の顔を見て。
一分一秒でも四信先輩と長くいたい。四信先輩をもっと知りたい。なっちゃんのほうが四信先輩とつき合いが長くて、たくさん知っている。そのハンデをなくしたい。なっちゃんのことが大好きだから、正々堂々と、戦いたい。争いを好まず、俺の気持ちを知ったら引いてしまうかもしれないなっちゃんと、ちゃんとぶつかりたい。たぶんそれが友だちってことだ。
四信先輩は俺の言葉に目を丸くする。だけど、それもいっしゅんで、黒い瞳はやわらかく弧を描いた。ほんと、どうしようもなくかわいいな、この人は。
「じゃあ旺二郎の生い立ちからな!」
「四信先輩の生い立ちからです。それはゆずれない。俺、あんたの絵を描くんですよ、あんたのこともっと知らないと描けない。ぜんぶ俺に見せてください。丸裸になる気分で」
「旺二郎お前スケベかよー俺のことそんな目で見てたのね! エッチ!」
わざとらしく高い声をだす四信先輩を見て、ぐっと言葉をのみ込む。
そうですそういう目で見てます。いつか四信先輩を丸裸にむきたいです。ヌードモデルとかそういうことじゃなくて、やらしい意味で。俺性欲とかほぼないと思ってたのにどうしてだろう、四信先輩のことはどうにかしたい。手を繋いで、抱きしめて、あわよくばキスして、それ以上のこともしたい。一度気がついてしまうともうだめだ、俺ってこんなに欲にまみれた人間だったんだ。こんな感情知らなかった、引き出したのはあんたですよ、四信先輩。
そんなこともちろん言えるわけがなくて、ふさげる四信先輩にせいいっぱいのっかろうと考える。「そういう発想にいっちゃう四信先輩のほうがスケベです」早口でまくし立てると四信先輩はゲラゲラ笑った。笑ってくれてよかったと安心して、よこしまな感情をなんとか引っ込めようと頭をふる。それくらいでなくなるなら、よこしまな感情なんて最初から抱かないよなと自分に苦笑いをして、ため息を吐いた。リラックスするために。
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