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「はぁ、四信先輩かわいい」
「旺二郎って一度気持ちを認めるとだだ漏れになっちゃうよね気をつけたほうがいいよ」
「俺いまなんか言った?」
「無自覚なの怖すぎ」
いっちゃんは俺の肩を軽く叩くと、ソファーから立ち上がり台所へ。洗い物をしている兄貴のとなりに立ち、兄貴が洗い終えたものをいっちゃんが拭いていく。いつもそうしているかのように、自然な流れだ。
ちょっと、ううん、すごく悔しい。俺の兄貴なのに、いっちゃんのほうが兄貴を理解しているような気がして、クッションを抱きしめながら二人を見つめる。
「旺二郎今日泊まっていくか? ここからだと実家より学校が遠いから早起きしないといけないが」
俺の視線に反応したように兄貴が微笑む。
はぁ、兄貴はほんとに優しい。それにひきかえ、いっちゃんはものすごくいやそうに俺を見る。「旺二郎は早起き不得意だし、家に帰ったほうがいいと思うけど」完全に建前な発言。本音ははやく兄貴と二人きりにさせろだろう。ほんとは二人きりにさせたくないけど、だけど、今日はいっちゃんになんだかんだ助けてもらった。今日は、今日だけは許してあげよう。それに、俺はまだやらなきゃいけないことがある。
「今日はもう帰る、泊まるのは早起きしなくていい金曜日とかにする。兄貴、いっちゃん、今日はありがとう」
カバンを肩にかけ、ソファーから立ち上がる。兄貴は皿を洗うのをやめて見送ろうとしてくれたけど、大丈夫だと首を横にふる。いっちゃんは俺がなにをやらなきゃいけないのかわかっているのかもしれない。「旺二郎の思うままに生きなよ。中途半端は一番駄目だからね」みっちーの受け売りだねと笑うと、いっちゃんも笑った。
俺の思うまま生きるよ。石ころらしく頑張ってみる。
「旺二郎、本当に強くなったな。俺はいつだってお前の味方だ、なにかあったら、いや、なにがなくても頼っていいんだからな」
兄貴はそう言って、俺の髪をくしゃりと撫でる。
兄貴が味方でいてくれる。それだけでなんだってできそうだ。もちろん兄貴が味方ならいっちゃんも味方してくれるはずだ。「兄貴ありがとう。いっちゃん、今日は邪魔してごめんね」ちらりといっちゃんを見つめると「今日は許してあげるよ」にこやかに返されるからまた笑ってしまった。許してあげると言いたいのは俺のほうなんだけどね。心の中でそう呟いて、兄貴の家をあとにした。
十一件の通知は四信先輩のもので、残りの一件はみっちーからだった。「学校は休んだがバイトには律儀に行くらしい。七緒と話したいならバイト先に行くといい」全力でなっちゃんのことを考えると言ったことを、みっちーは覚えていてくれたんだ。さすがみっちー。「なっちゃんと向き合ってくる。ありがとうみっちー」返信を打ち、酔っ払い客に絡まれませんようにと祈りながら、なっちゃんのバイト先まで走った。
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