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「おうちゃん、俺が恋しくなっちゃったー? ゴメーンネ、今日は学校休んじゃって。一日中考えてたんだ、いろいろと」  なっちゃんに連れてこられたのは、ロッカールーム。休憩室はほかに先輩もいるし、ここなら二人きりになれるしねとなっちゃんは言い、二人でパイプ椅子に腰を下ろした。 「なっちゃんはなに考えてたの?」 「……ちゃんしーパイセンのこと、これからのこと、いろいろ考えてた。どうするべきなのか、のらりくらり今までどおりしていいのか、一日考えてた」  ああ、やっぱり。なっちゃんは、四信先輩のこと。  なっちゃんの口からこぼれた四信先輩は、いとしい人を呼ぶそれだった。もう四信先輩への恋心を俺に隠すつもりはない、一日考えたすえになっちゃんはそう結論づけたのかもしれない。 「ちるちるとか、いっくんから聞いたかもしれないけど、俺、中学一年の時、ちゃんしーパイセンに救われたんだ。ちるちるといっくんは本物の金持ちだけど、俺の家はどうあがいても成金でしかなくて、二人の腰巾着だとかいろいろ言われたんだよね。気にしていないふりをしていたけど、やっぱりつらかった。上級生からボコられそうになった時、俺となんの関わりもないちゃんしーパイセンが助けてくれた」 「うん、聞いたよ。なっちゃんのことも、その上級生のことも、四信先輩はまるごと救ったんだよね」 「……うん。そうなんだよ、マジすごいよね。みんなを救っちゃうとかさ。ちゃんしーパイセンは目の前にいる人みんな救っちゃうんだよね、誰も見捨てたりしない。ちゃんしーパイセンはあの時から俺にとってヒーローで、憧れで、恋い焦がれてやまない人。俺、ちゃんしーパイセンが好きなんだ。いつかほかの誰かを好きになっても俺にとってずっと特別な人、それがちゃんしーパイセンなんだ。だけど、ちゃんしーパイセンには気づかれないように人懐っこい後輩ポジしてて。かっこ悪いよね、俺。自分の気持ち誤魔化して、蓋してた」  なっちゃんははぐらかすことなく、はっきり言ってくれた。いつも空気を読んで、誰も傷つけないようにしていたなっちゃんの本音を初めて聞いた気がして、どうしようもなく嬉しくて、気がついたら頬に涙が流れていた。俺の涙に気がついたなっちゃんは「なんでおうちゃんが泣くのかなぁ」と笑いながら、泣いていた。なっちゃんのその涙は悲しいからじゃない、そのことだけは俺にはわかる。  すぅ、はぁー、すぅ、はぁー。息を吸って、勢いよく吐く。なっちゃんが本音を言ってくれたのだから、今度は俺の番だ。ちゃんとなっちゃんと向き合って、ぶつかる。そう決めたんだ。

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