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二秒で閉める

 四信先輩とキスをするようになってから、隙あらばキスをしたくなる。  目が合ったらキス、シュートが決まってハイタッチからのキス、名前を呼ばれたらキス。キス、キス、キス、キスの嵐だ。一度キスを覚えると、キスをしなかったあの頃に戻れない。  だからといって、誰の唇でもいいわけじゃない。四信先輩じゃないとだめだ。キスをしたあと、なんともいえない照れくさい空気が流れ、しばらくすると四信先輩は前髪をいじり「旺二郎のスイッチわかんねえわマジで」とぎこちなく笑う。普段四信先輩はそこまで前髪をいじったりしないのに、キスしたあとだけ、照れくさそうに前髪をいじるから、かわいくてたまらない。これから四信先輩が前髪をいじっている姿を見ただけで、かわいいと思うのだろう。  ぎこちなく笑いながら前髪をいじる四信先輩でスケッチブックを書き終えてしまったけど、あの表情は誰にも見せたくない。俺だけが、あの表情を知っていたい。 「おーじろー、なに見てんだよ、手動かせっての」 「あ、すみません、四信先輩がシュートを決めている姿がものすごくかっこ良くてつい見とれてました」  キスしたあととか、ふとした仕草はものすごくかわいいのに、バスケしているときはとびきりかっこ良い。そんなのってずるい。思わずスケッチする手が止まり、ぼうっと四信先輩の後ろ姿に見とれてしまった。 「旺二郎ってさらっとそういうこと言うよな」 「そういうこと?」  転がるボールを回収する四信先輩を見つめながら首を傾げる。  俺、なんか変なこと言った? 思ったことそのまま言っただけなんだけど。  シュート決めている四信先輩がかっこ良いなんて百花の常識だ。それどころか、高校バスケットプレーヤーの中でも注目の的だということもこの間知った。ウェブ版スポーツ雑誌で四信先輩が記事になっていることをなっちゃんに教えてもらい、穴が空くほど読んだ。バスケのことはまだまださっぱりわからないけど、四信先輩の情熱がたしかに伝わってきて、ほんのすこし涙がでた。写真はもちろん保存した。こっそり待ち受けにしている。スマホを見るだけで顔がにやけるから、なっちゃんにはすぐバレたけど。 「だから、かっこ良いとかさらっと言うだろ」 「だって四信先輩かっこ良いですよ。もしかして、かわいいのほうがよかったですか? もちろん四信先輩はかわいいですよ、かわいくて、かっこ良いです」  四信先輩の手からボールが転がった。頬を赤らめ、前髪をくしゃくしゃ掻き乱す姿はやっぱりかわいい。取り乱しているのがバレたくなくて、俺から視線を逸らすのもかわいい。  そんなかわいい顔するってことは、俺のこと意識しているって思っていいんですよね。都合よく解釈していいですか、四信先輩。  椅子から腰を上げ、足元に転がってきたボールを拾う。「でもかわいい姿は俺だけが知っていたいんで、コンクールにだす絵はかっこ良い四信先輩にしたいです」四信先輩にボールを手渡すついでに軽くキスをする。何度キスをしてもぎこちなさそうにする四信先輩がやっぱりかわいくて、すぐにキスをしたくなる。

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