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二秒で閉める_02
「旺二郎しれっとキスしすぎだろ!」
「四信先輩がかわいすぎるからつい」
「俺を可愛いって言うの旺二郎だけだからなマジで」
「それはないですよ、こんなにかわいいのに」
「マジでねえから。俺、イケメンバスケットマンだから!」
「イケかわすぎるバスケットマン四信先輩ですね、わかります。そういえばインハイって八月なんですね」
五月から始まる地区予選に勝ち抜いた高校だけが、出場できるインターハイ。インターハイに優勝だったり、準優勝だったり好成績を残すと、十二月に行われるウィンターカップへの出場資格が得られる、ということを記事を読んで初めて知った。高校三年生は夏を前にして部活を引退するものだと思っていたけれど、強豪校である百花はインターハイで負けるまで、もしくはウィンターカップ後に引退するらしい。
「おう、今の目標はインハイ優勝!」
今の目標とはっきり言いきった四信先輩の瞳には、未来があった。インハイの先、ウィンターカップの先が、四信先輩には見えている。
前も思ったけど、いまは特に思う。四信先輩は何者にもなれる人だって。バスケットマンにだって、それ以外だって、きっとなれる。本場でバスケットマンになるために、準備をしているのだろうか。もしかして、卒業したらそのままアメリカに行ったり、するのか。
「四信先輩は、卒業したらどうするんですか。うちの大学にそのまま上がるんですか、それとも」
四信先輩の黒い瞳がいっしゅん、ほんのいっしゅんだけ、ぐらりと揺れた。けれども、四信先輩はすぐにいつもの調子を取り戻して、ニカッと歯を見せて笑っていた。いまのは俺の見間違いか? そう思うほどいっしゅんだった。
「前の俺ならなにも考えてねえよ、ノープラン! って笑って誤魔化したんだろうけどよ、やっぱ旺二郎には嘘吐きたくねえな――すっげえ悩んでる。アメリカの大学へ留学するための準備自体はもうすんでる、必要なのは俺の覚悟だけ。その覚悟がまだ足りてねえ」
悩みごとなんてない、みんなの前ではそうふるまっている四信先輩が俺には、俺だけには、正直に言葉を並べてくれる。ぐらぐら揺れて、悩んでいることを、まっすぐ俺の瞳を見て、話してくれている。それが嬉しいのに、俺はなんにも手助けできない。かっこ悪い。それにくらべて、四信先輩は、なんてかっこ良いだろう。
俺は、四信先輩のためになにができる?
頑張ってくださいなんて、誰よりも頑張っている四信先輩に言えない。
無理しないで、というのもちょっとちがう。
アメリカの大学行っても大丈夫ですよ、なんて言えない。四信先輩がアメリカに行ったら、すこし、ううん、すごく、いやだ。離れたくない。なんてワガママなんだろう、俺は。四信先輩にとって一世一代のときだって言うのに、子どもみたいにぐずぐずしている。
やっぱり俺はなにもできない。ダサい。情けない。あまりのかっこ悪さに泣きそうだ。
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