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二秒で閉める_03
「……四信先輩はすごいです、やっぱり、ちょうかっこ良いですよ、悩みごとをうやむやにしないで、真正面から向き合って、俺に話してくれて、ほんとにかっこ良いです。それなのに俺は四信先輩のために、なんもできない、かっこ悪いです。そのうえ四信先輩がアメリカ行ったら、さみしいとか思って、なんにも言えない、です」
バスケットボールを持つ四信先輩の手に、そっと自分の手を重ねる。こんなことしかできない俺ってちょうダサい。思わず俯くと、四信先輩がずいっと俺の顔を覗き込んで、優しく微笑んだ。さっきまでちょうかっこ良かったのに、いまはもうハイパーかわいい。四信先輩ってほんと無敵だ。
「俺、旺二郎だけにこういう話できるんだよ。ずっと一人で抱えこんできたこと、お前だから話せる。話してえって思う。それで実際話してみたら、お前は俺以上に悩んでくれて、さみしいとか可愛いことまで言ってくれちゃって、ぐずぐず泣きそうになってると来た。旺二郎のそういうところに、なんか救われるわマジで」
四信先輩はバスケットボールを持っていない手で俺の髪をわしゃわしゃと掻き乱した。どこまでもガサツで豪快な撫で方なのに、とびきり優しい。
いつだって救われているのは俺のほうですよ、四信先輩。心の中で呟いて四信先輩を抱きしめた。
「俺でよかったら、なんでも話してください。なんでも聞きますし、聞きたい。ただ聞くことしかできませんけど。たまに抱きしめたりします、キスもしたい、です」
これじゃあ下心しかないな俺。いまのやっぱなしって言ったほうがいいのか。
眉を寄せて悩んでいると、四信先輩はゲラゲラと声を上げて笑った。「下心丸出しかよ、旺二郎のすけべ!」はいすけべですすみません。
「四信先輩にだけすけべです」
「イケメンな顔して言う台詞かよ!」
「いつもどおりの顔なんですけど」
「いつもどおりでイケメンなんだよ旺二郎は!」
シリアスな空気感がすっかりだいなしだと小さく噴きだす。「やっぱ旺二郎は笑った顔がいいな」四信先輩だって、笑顔がいい。いつだって笑ってほしい。
「なあ旺二郎、インハイ決勝ですっげえ活躍するから、しっかり目に焼きつけてくれよ」
インハイ決勝としっかり口にした四信先輩は、覚悟が足りないように思えなかった。
ねぇ、四信先輩はなんの覚悟が足りないんですか。
そう聞きたかった。だけど、聞けなかった。聞いてしまったことで、四信先輩の覚悟が決まって、アメリカに行くとはっきり言われたら、笑顔で行ってらっしゃいと言えそうにない。
俺にもまだ覚悟が足りない。四信先輩の背中を押す覚悟が。インハイ決勝で四信先輩の姿を目に焼きつけたら、変われるだろうか。ううん、変わりたい。コンクールにだす絵は、インハイで焼きつけた四信先輩の姿がいい。
「はい、しっかり四信先輩の姿を目に焼きつけます」
「おう――インハイ終わったら俺の話聞いてくれるか」
すこし不安げな表情をする四信先輩に向かっていやですなんて言えない。そもそも四信先輩にたいして、拒絶したくない。ちょっと前まで拒絶しまくりな俺が、いまの俺を見たら倒れるかもしれない。
「はい、なんでも聞きます」
俺もちゃんと覚悟決めます。
しっかり頷くと、四信先輩はほっとしたようにはにかむ。あ、かわいいと思ったしゅんかん、キスをしてしまう自分にびっくりする。それ以上に四信先輩がびっくりしているのがかわいい。「……今度からキスの予告してくんね?」前髪をいじってからシュート練習を再開する四信先輩がかわいすぎて、二秒後には「キスしていいですか」と言っていた。あっさり断られた。
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