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二秒で閉める_06
「ちるちる、俺を試してるっしょ。ぜーんぜん余裕だし。連れてきていいよ」
誰を連れてくる気なんだ。俺人見知り激しいから知らない人とか無理なんですけど。
なんて言えないほど、なっちゃんとみっちーは静かに見つめ合っていた。その空気をぶち壊したのは、天まで届きそうなみっちーの高笑い。
「そうだな、七緒を試した。すまない。連れて来たいのは山々なんだが、あいつは白金家の敷居を跨ぎたがらなくてな」
「あーちるちるにおちょくられたー、ほーんとちるちるそーいうとこあるよねー」
なっちゃんはぐったりと肩を下げ、みっちーはやっぱり笑っている。この状況を飲み込めていないのは俺だけらしく、いっちゃんは素知らぬ顔。
ちょっと悔しい。だけど、聞いてはいけないと前の俺なら思っていた。いまは、四信先輩のおかげで踏みだせた俺は、ずいっとなっちゃんたちに顔を寄せ「俺にもわかるように、説明してほしい」と言える。予想外だったのか、なっちゃんは緑の瞳を丸めて、すぐにやわらかく弧を描いた。
「こーいうとこマジ俺たちだめだよね。おうちゃんにもわかるように言えって話だよな。ちるちるとかいっくんと話してるとすーぐ心理戦になっちゃうけど、おうちゃんのドスレトートなところ、俺ちょう好き」
「わざとわかりにくくしてしまいがちだな、反省しなければならない。旺二郎悪かった、俺様も旺二郎の真っ直ぐさ好きだぞ――それで旺二郎はどこから説明してほしいんだ」
どこからって、ぜんぶだ。最初からさっぱりわからなかった。そう言う前に「まずはあれっしょ、ちゃんしーパイセンよりも連れて来てほしいあいつって誰? って話だよね」さらりとなっちゃんが言った。さすがなっちゃん、俺の言いたいことぜんぶわかっている。それなのにさっきあんなにわかりにくく回りくどく言うんだから、二人とも意地悪だ。
「おうちゃんは覚えてっかなー、俺のバイト先の赤髪の人。目が死んでるけどやたら美人の」
なっちゃんのバイト先の人で赤髪、目が死んでるけどやたら美人。点をつなげた先には一人しかいない。月島音八だ。
なんで月島音八? 四信先輩よりも、なっちゃんにとって大きな存在なの。思ったよりも悪い人じゃない、この間はそう感じたけど、そうだとしても、あの月島音八がなっちゃんにどんな影響を与えたのか、俺にはさっぱり想像ができなかった。
どうにもピンと来ないけど「月島音八のことだよね」と口にすると、話に入ってこなかったいっちゃんがとつぜん笑った。
「旺二郎って嫌いな人のことフルネームで呼ぶよね」
そんなことはない、とは言えなかった。
渋谷歩六、月島音八、そして前は四信先輩のことを上野四信と呼んでいた。フルネームで呼ぶことで、どこか距離を置いているのかもしれない。
なにも言えずに俯いていると、なっちゃんが俺の肩に腕を回した。そっと俺の心に寄り添ってくれるように。
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