69 / 96

二秒で閉める_07

「俺も音八パイセンのこと最初無理だったんだよね。第一印象最悪って感じ。俺の突かれたくないところを遠慮なく突いてくるし、悪い意味で空気読まないし、男だろうが女の子だろうが気に入った客にはすぐ手を出すし、マジないわーって思ってた。だけど、あの人の歌を聞いたら、ぐっと来ちゃった。音八パイセンはプロを目指してるバンドマンでさ、歌詞がまぁくそダサいんだけど、俺には刺さりまくった。俺の歌かよーって思った」  いつも目が死んでいる月島音八の歌で、なっちゃんは救われたんだ。穏やかな声色で語るなっちゃんを見ていたら、その事実が手に取るようにわかる。  でも、あの月島音八がバンドマン。カラオケでバイトするくらいだから、ボーカリストだろうか。やる気なんてかけらもなさそうな顔をしているけど、どんな顔をして歌うのだろう。なっちゃんを救った月島音八の歌を、いつか聞いてみたい。 「音八パイセンのおかげで、おうちゃんと向き合おうって思えたんだよ。空気を読んで、へらへら笑って、誰も傷つけないように生きていたつもりだったけど、それって自分が傷つかないようにしていただけだって、音八パイセンと関わって知った。傷ついても、ちゃんとおうちゃんとぶつかろうって思った。あの時、おうちゃんと話さなかったら、こうして笑っていられなかった。だから、音八パイセンにはマジ感謝してんの……ってもー、おうちゃんったらなんで泣いてんのー」  あれ、俺、泣いている。なんで。わかんない。  なっちゃんに涙を拭われるまで、自分が泣いていることに気がつかなかった。昔から泣き虫だったけど、この間から涙腺がゆるみっぱなしでしょうがない。 「わかんないけど、なんか、嬉しくて」 「どー嬉しいのか七緒さんに話してごらん」  どこまで軽いノリでなっちゃんは俺の髪を撫でる。その軽さにほっとした。 「いまこうしてなっちゃんと笑いあっていられるのが、嬉しい。月島音八に感謝しないといけないね」 「それでもまだフルネーム呼びなんだ」  あいかわらずいっちゃんは痛いところを突いてくる。「いきなり違う呼び方はハードル高い」そう言って唇を尖らせると、ふと思いだした。月島音八がみっちーのことを「白金の坊ちゃん」と呼んでいたことを。  月島音八はいっちゃんのことを「黒髪眼鏡御曹司」と呼んでいた。いっちゃんは黒髪だし、眼鏡をかけているし、どこぞの御曹司に見える。その呼び方は納得だ。だけど、どうしてみっちーは「白金の坊ちゃん」なのだろうか。なっちゃん経由で知り合いになった?  みっちーをじっと見つめると、俺の視線に気づいたのか、みっちーは青い瞳を俺に向ける。なにか言いたいことがあるなら言ってみろとばかりに。

ともだちにシェアしよう!