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二秒で閉める_07
「俺も音八パイセンのこと最初無理だったんだよね。第一印象最悪って感じ。俺の突かれたくないところを遠慮なく突いてくるし、悪い意味で空気読まないし、男だろうが女の子だろうが気に入った客にはすぐ手を出すし、マジないわーって思ってた。だけど、あの人の歌を聞いたら、ぐっと来ちゃった。音八パイセンはプロを目指してるバンドマンでさ、歌詞がまぁくそダサいんだけど、俺には刺さりまくった。俺の歌かよーって思った」
いつも目が死んでいる月島音八の歌で、なっちゃんは救われたんだ。穏やかな声色で語るなっちゃんを見ていたら、その事実が手に取るようにわかる。
でも、あの月島音八がバンドマン。カラオケでバイトするくらいだから、ボーカリストだろうか。やる気なんてかけらもなさそうな顔をしているけど、どんな顔をして歌うのだろう。なっちゃんを救った月島音八の歌を、いつか聞いてみたい。
「音八パイセンのおかげで、おうちゃんと向き合おうって思えたんだよ。空気を読んで、へらへら笑って、誰も傷つけないように生きていたつもりだったけど、それって自分が傷つかないようにしていただけだって、音八パイセンと関わって知った。傷ついても、ちゃんとおうちゃんとぶつかろうって思った。あの時、おうちゃんと話さなかったら、こうして笑っていられなかった。だから、音八パイセンにはマジ感謝してんの……ってもー、おうちゃんったらなんで泣いてんのー」
あれ、俺、泣いている。なんで。わかんない。
なっちゃんに涙を拭われるまで、自分が泣いていることに気がつかなかった。昔から泣き虫だったけど、この間から涙腺がゆるみっぱなしでしょうがない。
「わかんないけど、なんか、嬉しくて」
「どー嬉しいのか七緒さんに話してごらん」
どこまで軽いノリでなっちゃんは俺の髪を撫でる。その軽さにほっとした。
「いまこうしてなっちゃんと笑いあっていられるのが、嬉しい。月島音八に感謝しないといけないね」
「それでもまだフルネーム呼びなんだ」
あいかわらずいっちゃんは痛いところを突いてくる。「いきなり違う呼び方はハードル高い」そう言って唇を尖らせると、ふと思いだした。月島音八がみっちーのことを「白金の坊ちゃん」と呼んでいたことを。
月島音八はいっちゃんのことを「黒髪眼鏡御曹司」と呼んでいた。いっちゃんは黒髪だし、眼鏡をかけているし、どこぞの御曹司に見える。その呼び方は納得だ。だけど、どうしてみっちーは「白金の坊ちゃん」なのだろうか。なっちゃん経由で知り合いになった?
みっちーをじっと見つめると、俺の視線に気づいたのか、みっちーは青い瞳を俺に向ける。なにか言いたいことがあるなら言ってみろとばかりに。
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