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二秒で閉める_10

「ちゃんしーパイセンはコーラだよねー、はい!」 「さっすが七緒わかってんなー! サンキュー」  さすがだなぁと俺まで感心してしまった。  四信先輩はコーラが好き。その事実をなっちゃんはしっかり把握している。好きな人の好きなものを知るって大事だ。「あ、俺のこと知ってくれてるんだな」と嬉しくなって、好感度が上がる。俺にはできないなっちゃんらしい気遣いだ。  なっちゃんはメロンソーダとコーラをロックグラスに入れ、俺たちに差しだす。俺がメロンソーダ好きだってこともちゃんと把握してくれている、なっちゃんさすがだなと頷いてロックグラスを受け取った。 「七緒ってマジで気が利くよなー、でもそんなに気遣わなくていいんだぜ。楽に生きろよ」  四信先輩の手がぽんっとなっちゃんの頭に触れる。あ、ずるい。俺以外にかんたんに触れちゃうなんて、いやだ。喉から声がでそうになったけど、あまりにもかっこ悪い。メロンソーダと一緒にダサすぎる嫉妬を飲み込んだ。  四信先輩に触れられたなっちゃんはくしゃくしゃと笑っていた。好きな人に触れられると、人ってあんな顔をするのか。俺も、ああいう顔をしているのだろうか。 「俺ちょー楽に生きてますしー! ちゃんしーパイセンのほうが大変っしょ。曲者揃いのバスケ部員まとめて、引っ張って、マジカッコいいっすよ、惚れ直しちゃう」 「相変わらず七緒は可愛いこと言ってくれんな! 五喜も見習え!」 「僕だって四信さんのことは尊敬していますよ」 「俺のほうがちゃんしーパイセンのこと尊敬してまーす!」  美術の授業中、体育館に行ったとき、なっちゃんは四信先輩に「惚れ直しちゃう」と言っていた。あのときの惚れ直しちゃうは語尾にハートマークをつける勢いのどこまでも軽いノリだった。だけど、いまのは、そういうのじゃない。重たいわけじゃないけど、軽くない。真剣味を感じる「惚れ直しちゃう」だ。さっき、なっちゃんが月島音八に救われたと聞いて、すっかり安心しきっていた俺に牽制するようなそれ。  そうだ、俺となっちゃんはライバルだ。なにをゆるんでいるんだ、神谷旺二郎。本気をだしたなっちゃんは強い。俺なんてひとたまりもない。それでも、俺は四信先輩じゃなきゃだめだ。いくらなっちゃんにだってゆずれない。 「俺、も」  夢中で話している四信先輩となっちゃんの視線をどうにか俺に向けるために、声を上げた。高みの見物を決めているいっちゃんはどこまでも楽しげに笑うから、ほんと意地が悪い。 「俺も、四信先輩の、俺の背中についてこいな感じとか、ちょう自然に助けてくれるところとか、好きです」  四信先輩は大きく瞬きをして、照れくさげに前髪をいじる。その仕草、いまするんですか。ずるいですよ。キスしたくなっちゃうでしょう。 「旺二郎のそういうところずるいよな」 「ずるいのは四信先輩のほうですけど」 「俺のどこが?」 「……秘密です」  前髪いじるのがずるい、なんていっちゃんとなっちゃんの前で言えない。それに男は秘密のひとつやふたつ、あったほうが色っぽい。 「秘密ってなんだよずるいわー」 「今俺たちの間で秘密主義がちょっとブームなんです!」 「なんだよそれ、俺もなんか秘密作ろうかな」 「四信さんはオープン主義なところが素敵ですよ」  いっちゃんは四信先輩をオープン主義と言うけれど、それはちょっと違うということを、俺だけは知っている。俺と四信先輩だけの秘密、その響きはみっちーが言うとおり色っぽい気がした。

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