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二秒で閉める_12
「ちゃんしーパイセーン! おうちゃんだけじゃなくて俺にも教えてくださーい」
うわっと間抜けな声がでそうになるほどびっくりした。
ソファーに座っていたなっちゃんが前のめりになり、俺が開いていた教科書を覗き込んでくる。さすがの反射神経と言うべきか、四信先輩は繋いでいた手を離した。
近づいた距離だけ、離れたときに寂しい。四信先輩の温もりが残っている手のひらをぎゅっと握りしめた。
「しょうがねえなー、四信さんが教えてやるよ」
「やったーちゃんしーパイセン愛してる!」
なっちゃんはソファーから下り、四信先輩のとなりに座る。「こことかぜんぜんわかんないんすよね」「あー、ここな、ちょっと躓きやすいとこだな」なっちゃんが教科書を指差して、四信先輩が解説を始めるけど、どうしよう、二人の会話にぜんぜんついていけない。俺、なっちゃんのレベルまで到達してない。完全に置いてけぼりだ。どうしようもなく寂しくて、苦しい。
「四信さん、両手にイケメンですね」
「両手もだけど、中央の俺もイケメンだろー五喜も混ざるか?」
「僕は遠慮します。ここに飲み物置いておきますね」
「いっくんありがと!」
置いてけぼり状態から救われると思ったのに、いっちゃんはテーブルにきれいなピンク色をした飲み物を置いて、カウンターテーブルのほうへ行ってしまった。勉強教えてくれるって言ったのに。いっちゃんこのやろう。
二人の高度な会話にはついていけそうにないから、グラスを手にとる。きれいなピンクだ。なっちゃんの髪みたいな色をしている。一口飲むと、口いっぱいにベリーの香りが広がる。甘すぎなくて、サワヤカ。四信先輩みたいだ。
「サフト、美味しいだろう」
寂しそうな俺を見かねたのか、みっちーが俺のとなりに腰を下ろして話しかけてくれた。みっちーって偉そうだけど、なんだかんだ優しい。
「この飲み物、サフトっていうの?」
「ああ、ベリーを砂糖で煮る濃縮果汁だ。これは水で割っているが、ワインで割るのも美味しいらしい。スウェーデンの伝統的な飲み物だ」
「もしかしてみっちーが作ったの」
「俺様に料理は向いていない。あのキッチンはほとんど千昭が使っている」
えっ、千昭さんって何者なの。
鼻歌を歌いながら楽しそうに料理をしている千昭さんを見ると、料理人のようにも思える。もしかして、運転手は仮の姿で実は料理人?
千昭さんはミステリアスだから色気あるなぁ、なんて考えていたら、みっちーが俺の肩に腕を回して顔を寄せてくる。うっ、まぶしい。美の暴力反対。
「旺二郎、このままでいいのか」
「な、なにが?」
「七緒と上野をこのままにして」
そんなのやだ。ものすごくやだ。だけど、なっちゃんの気持ちを俺が止めていいはずない。俺になっちゃんを邪魔する権利なんて、ない。だって、四信先輩は俺のものじゃないから。
思わず俯きそうになると、みっちーに顔を覗き込まれて阻止される。まぶしい。目がつぶれる、そんなことを考えられなくなるほど、みっちーの青い瞳は真剣味おびていた。
「このまま七緒に上野をとられてもいいのか」
耳元で囁かれた言葉に勢いよく立ち上がってしまう。集中していた四信先輩が「どうした旺二郎、顔真っ青だぞ」と心配そうに呟く。なっちゃんも緑の瞳を丸め「おうちゃん具合悪いの? 大丈夫?」と言った。
大丈夫じゃない。なっちゃんに、四信先輩をとられたら、やだ。ただ、二人が仲良くしているだけで、世界でひとりぼっちになった気分になるのに、こんなにも苦しいのに、もし二人がつき合ったら、俺は。
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