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二秒で開ける_04

「五喜、あんまり旺二郎をいじめるな」 「だって旺二郎、ノープランっぽいんだもん。今ノープランだったら、明日はパニックになるよ。これはいじめじゃなくて、友だちとしての優しさだよ」  グサッといっちゃんの言葉が胸に刺さる。兄貴が飴なら、いっちゃんはムチだ。 「ねぇ旺二郎、七緒が四信さんに告白したところを聞いたんだよね。なんて言ってたか覚えてる?」 「なにって、四信先輩のことがずっと前から好きだったって言ってたよ。ああいうときだけちゃんしーパイセンじゃなくて、四信先輩って言うところになっちゃんの本気さを感じたなぁ」  あれは反則だ。チャラい男が急に真面目モードに入ったら、きっと女の子はみんなコロッといく。四信先輩は女の子じゃなくて男だからコロッといくとはかぎらないけど。  いっちゃんは「ああ、やっぱりそういうことか」と頷いてにっこり口角を上げた。謎はすべて解けた、みたいな顔しないでよ。俺を置いていかないで。 「そういうことってなに?」 「旺二郎って現代文苦手でしょ」 「そもそも得意教科はないよ。兄貴が教える古典は好きだけど、兄貴じゃなかったら別に好きじゃないし」 「ブラコン兄弟だなぁ、本当に。まぁ、七緒の告白は気にしなくていいと思うよ。四信さんにちゃんと告白をして、ちゃんと返事を聞きなよ。明日世界が滅びたら後悔するのは旺二郎だよ」  告白をしたとき、四信先輩のことを待つと言った。だから、返事を急かすことはしたくなかった。  でも、千昭さんやいっちゃんの言うとおり、もし明日世界が滅びたら後悔するのは俺だ。四信先輩の答えがイエスでもノーでもいま聞かないと後悔する。 「水を差すようで悪いが、明日世界が滅びるなら今から告白するべきじゃないのか?」  兄貴の言葉に思わずいっちゃんと顔を合わせる。「さすが僕の一志さんだね愛してるよ」「いっちゃんの兄貴じゃないよ。兄貴の言うとおりだありがとう」兄貴は俺たちの顔を交互に見て、ふっと笑った。「お前たち本当に仲良しだな。人見知りの旺二郎が五喜たちと関わって強くなったんだな」そうだね、俺もそう思う。いっちゃん、みっちー、そして、なっちゃん。三人は俺にとって初めての親友だ。俺を変えてくれた人たちだ。だけど、いっちゃんには言わない。悔しいから。  僕のおかげでしょとにやにやするいっちゃんをスルーして、カバンからスマホを取りだす。ラインを起動すると、四信先輩から「旺二郎、体調はもう良くなったかー? テスト勉強もいいけどあんま無理すんじゃねえぞ」とメッセージが届いていた。  俺、体調悪いから帰ったことになっていたのか。みっちーがごまかしてくれたのかもしれない。ありがとうみっちーと心の中でお礼を言い「心配かけてごめんなさい、もう大丈夫です」「四信先輩に会いたいです」「いますぐ」「どこにいますか。四信先輩のところに行きます」ちょっとストーカーちっくで気持ち悪い。送信したけど消したい。そう思ったしゅんかん、あっという間に既読がついた。画面に表示されたメッセージに決意が固まり、ソファーから勢いよく立ち上がる。 「兄貴、いっちゃん、俺、いまから四信先輩に会いに行くよ。世界が滅びる前に伝えなきゃ」 「ぶっちゃけ明日世界は滅びないとは思うけど、僕は旺二郎のそういうところけっこう好きだよ」 「旺二郎、ちゃんと上野に旺二郎の想いを伝えてこい。気をつけてな」  やっぱり兄貴は飴で、いっちゃんはムチ。  ホットレモンをぐびぐび飲む。今なら世界が救える気がする。それくらいにパワーがみなぎっている。  カバンを肩にかけ「兄貴、いっちゃん、いつもありがとう。俺はもう帰るから存分にイチャイチャしていいよ」いっちゃんを見つめる。「言うようになったね、旺二郎も。言われなくても一志さんを可愛がるよ」いっちゃんはにっこり優等生の笑みを浮かべ、兄貴は困ったように顔を赤く染めている。いっちゃんのハレンチめ。 「……勉強は教えてもらってないけど、それ以上に大切なこと教えてもらったし、ちゃんと約束は守るよ」  アルバム楽しみにしておいてねいっちゃん。  心の中でそうつけたすと、いっちゃんはなにもかも察したように笑った。「ものすごく楽しみにしておくよ」兄貴だけは首を傾げているけど、これは俺といっちゃんの秘密だ。  四信先輩とのトーク画面を見つめながら、兄貴の家を飛びだした。「俺も旺二郎に会いたい」「駅前で待ってる」好きな人からの「会いたい」の四文字は効果抜群だなとスマホを強く握りしめた。

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