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二秒で開ける_05

 電車に乗っているとき以外は、ひたすら走っていた。歩いている時間がもったいなくて、ただただ走った。息が苦しくて、それ以上に胸が苦しい。  あの日も、四信先輩に告白した日も、こんなふうに走っていた。四信先輩に会ったらまず謝ろうだとか、やっぱり告白しようとか、バカなりに頑張って考えた。でも今日はちゃんと道ができている。統花様が、千昭さんが、兄貴といっちゃんが、正してくれた俺の道。あとはたったひとつの光に向かって走ればいいだけ。  電車を降りたしゅんかん、走りだす。人にぶつかりそうになり、すみませんと謝りながら、改札を抜けた先にいる四信先輩めがけて走った。  いてもたってもいられずに「四信先輩!」と声を上げる。人生史上一番大きな声がでたかもしれない。周りの人がぎょっとした顔で俺を見るけど、そんなこと気にしていられない。四信先輩に届くまで、バカみたいに四信先輩の名前を呼ぶ。  俺の声を探して視線をさまよわせる四信先輩とバチリと目が合った。四信先輩ははにかむように笑い、俺に向かって大きく手を振っている。ずっと振り返すことができなかった。だけどいまは振り返したいと思える。人から見たらずいぶんとぎこちない振り方だろうけど、四信先輩は優しく目を細め「旺二郎!」と俺を呼んでくれた。  ああ、もー、だめだ。視界がぼやぼやする。だけど、俺の道はぐにゃぐにゃしていない。ちゃんとまっすぐだ。四信先輩に向かっていける。大丈夫。  あまりにも気持ちが焦りすぎて、カード読み取り部にスマホを当てるのを忘れて、バンッと自動改札のドアが閉まった。超絶ダサい。死にたい。 「……えっと、どこまでもかっこわるくてすみません」  改札の向こう側にいる四信先輩ははじけたようにゲラゲラ笑った。「旺二郎マジ最高だわ、俺、お前のそういうとこすっげえ好き!」  え、いま、なんて言った。好きって言わなかったか。四信先輩がさりげなく、さらりと、俺を好きって言った。いまの聞きましたかと俺の背中を冷たく睨んでいるサラリーマンに聞きたい。  今度は冷静に、スマホを読み取り部に当てる。今度はちゃんと改札の扉が開いた。まるで、俺の、四信先輩の心の扉まで開けてくれている気がした。  泣きそうなぐらい笑っている四信先輩をじとりと睨みながら、改札を抜ける。「ごめんって! だってお前、今のはねえだろ、今年一番笑えるわ!」  まぁ、四信先輩の一番ならいいか。ちょろすぎる自分に笑って、四信先輩を思いきり抱きしめた。 「……俺、四信先輩が好きです、大好きです、今日も明日も毎日言います、世界が滅びたら後悔するから毎日言うって決めました」  なんでいきなり世界が滅びたらの話をするんだと四信先輩は思うかもしれないけど、四信先輩はなにも言わずに俺の背中に腕を回してくれる。互いの体も、心も、ぐっと近づいた気がした。

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