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二秒で開ける_06

「……俺も、旺二郎に言いてえことたくさんある。あるけど、ここだとはずくね?」  がやがやと人が来ては去っていく電車の改札。そこで男子高校生が抱き合っていたら、注目がいやでも集まる。サラリーマンの視線はどこまでも冷たく、女の子はひそひそ「あの人たちデキてるのかなぁ」「めっちゃ目の保養じゃん」どこか楽しげに話していた。  四信先輩と視線を合わせると、互いにゆっくり距離をとる。体は離れたけれど、心は離れた気がしないのは、目が合うと四信先輩がはにかんでくれるからだ。 「……あの、四信先輩さえよかったら、俺の家に来ませんか。近いし。そのまま泊まってもいいですし」 「こんなに遅くにいいのかよ? 迷惑じゃねえか?」 「まさか。ばあちゃんも、四信先輩に会いたいって言ってました」 「マジかよ。それなら、お邪魔させてもらうわ」  やった。やったぁ。やったぁぁぁ。  思わず小躍りしたくなる。小さくガッツポーズをして、四信先輩に手を差しだす。四信先輩は少し恥ずかしそうに、だけど、俺の手を握りしめてくれた。  家につくまでの間、四信先輩と手を繋いだ。お互いなにも言わない。だけど俺が四信先輩の手をぎゅっと握りしめるたび、四信先輩も握り返してくれる。それが嬉しくて、なんども優しく握りしめた。  俺、やっぱり四信先輩が好きだ。大好きだ。この手をいっしょう離したくない。繋いでいたい。  それと同じくらい、なっちゃんのことも大事だ。だからこそ、なっちゃんに遠慮するのはちがうよね。遠慮したらなっちゃんが俺のこときっと笑う、なっちゃんは遠慮しなかった。正々堂々四信先輩に告白していた。扉を開けて聞こえてきた告白に、どうしたらいいかわからなかったけれど、なっちゃんは俺に遠慮をしないと、親友だからこそ遠慮しないと教えてくれた。 「旺二郎お帰りなさい……もしかして四信さんかしら。初めまして、旺二郎の祖母のこずえです。いつも旺二郎がお世話になっているみたいで、本当にありがとうございます。これからも旺二郎のことよろしくお願いしますね」  さすが俺のばあちゃん。四信先輩が名乗らずとも、四信先輩であることを見抜いた。  四信先輩は少し照れくさげに俺を見てから、体育会系らしく勢いよく頭を下げる。 「初めまして、上野四信といいます。こちらこそ旺二郎にはいつも助けられています。俺よりも、俺のことを悩んでくれて、泣いてくれることもある……旺二郎の優しさに救われています。旺二郎を育ててくれてありがとうございます」  いまのは、反則じゃないか?  まっすぐばあちゃんの目を見て言った四信先輩の横顔があまりにもカッコよくて、泣きそうになる。  ばあちゃんは四信先輩を見つめて微笑んでから、俺を見る。「あらあら、旺二郎ったら本当に泣き虫さんなのだから」だって、ばあちゃん、いまの四信先輩は反則だ。ぐずぐずと鼻をすすると、四信先輩は「まったく旺二郎はすぐ泣くんだからよー」と笑い、俺の目元をごしごし拭いてくれる。 「四信さん、私は旺二郎を見守ってきただけです。旺二郎を育て、変えてくれたのは、まぎれもなく四信さんや、旺二郎の周りにいる優しいお友だち。旺二郎が優しいと感じるのは、四信さんが優しいからですよ――四信さん、旺二郎に優しくしてくれて、変えてくれてありがとうございます」  俺の目元を拭いていた四信先輩の手が止まる。四信先輩はかすかに唇を震わせて、くしゃくしゃな顔で泣きそうになりながら、必死に笑っていた。「……旺二郎が変わったのは、旺二郎自身が踏み出したからです、でも、そう言ってもらえると、あー、照れます、ね」ばあちゃんの言葉が、嬉しくてたまらないと笑っている四信先輩を見て、やっぱり俺は泣いてしまった。

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