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二秒で開ける_07

 ばあちゃんは「夕ご飯はまだかしら? 四信さんも一緒にどうぞ」と言ってくれて、三人で食べることになった。四信先輩と一緒に食べるなにか口にするたびに四信先輩は「これすっげえ美味いですね、レシピ教えてください!」と元気よくスマホを取りだして本当にばあちゃんからレシピを聞いてメモ帳に打ち込んでいた。主婦かな? ありだな、うん。にやつきそうになる口元を必死に抑え、おいしそうに食べてくれる四信先輩を見つめながらご飯をもりもり食べた。  それから風呂に入って、四信先輩に俺のスウェットを貸した。「旺二郎大きすぎだろ!」不満を言う四信先輩がとにかくかわいいし、俺のスウェット着てる四信先輩っていうシチュエーションがもうやばい。いろいろと限界。俺のナニが爆発しませんようにと祈りながら、四信先輩を俺の部屋に案内する。こんなことならもっときれいにしておくべきだった。昨日の俺バカ。 「おっ、スケッチブックの数すげえ――ぜーんぶ俺! 旺二郎、俺のこと好きすぎかよ!」  勉強机(といってもまるで勉強しないで絵ばっかり描いているんだけど)に置かれたスケッチブックを四信先輩が手にとり、パラパラとめくる。どこもかしこも四信先輩だらけ。ちょっと恥ずかしい。四信先輩はもっと恥ずかしそうに前髪をいじっている。その仕草かわいいからやめてほしい。 「……はい、四信先輩のこと大好きですよ。何枚描いたって飽きないし、もっともっと描きたくなるのは四信先輩だけです。大好きだからこそ、もっともっと四信先輩の良さを引き出したくなるんです」  四信先輩はかすかに耳を赤く染め、スケッチブックを机の上に戻すと、ドカッと勉強机の椅子に座った。座る場所といえば勉強机の椅子とベッドしかないのだから、四信先輩の行動は当然のようにも思えた。もし、四信先輩がベッドに座ったらドキドキしてどうにかなる。  四信先輩にならうように、ベッドに座る。ギシッと軋む音が響くほどの沈黙。話したいことがたくさんあるはずなのに、どうしよう。とりあえずなっちゃんに告白されたことを聞いちゃう? でもそれって盗み聞きしてましたって宣言するようなものだし――そうだ、インハイ終わったら話すって言っていたことを聞こう。 「なあ旺二郎、インハイ終わったら俺の話聞いてくれるかって言っただろ。その話、今してもいいか」  えっ。思わず声がでそうになった。まさに俺が聞きたかった、聞こうと思っていた話だ。  はいと声にだしたつもりが、緊張でちっとも声にならなかった。そのかわりにしっかり一回頷く。四信先輩はニカッと歯を向けて笑ってから、深呼吸を繰り返す。四信先輩もきっと緊張している。それでも、俺に話そうとしてくれているのだ。なんであれ、受け止めようと拳を握りしめた。

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