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二秒で開ける_08
「うっかり旺二郎に漏らしたと思うんだけどよ、俺、捨てられることがなによりも怖い。無条件で愛してくれると思っていた存在に捨てられたから、だと思う」
四信先輩の声が、手が、震えている。それでも一生懸命話してくれようとしている。
いてもたってもいられず、ベッドから立ち上がると、四信先輩の手を握った。怖くないですよ、大丈夫です、俺がいますと伝えるために。そのまま四信先輩の手を引く。「……手握っていたいんです、だから四信先輩もベッドに座りませんか?」少し泣きそうなのか、四信先輩の瞳が潤んでいる。それでも笑うことを忘れないでいる四信先輩は強い。「……しょうがねえな旺二郎はー! 俺の手ぜってえ離すなよ?」はい、いっしょう離しません。心の中でそう誓い、二人でベッドに腰を下ろす。もう、四信先輩の手は震えていなかった。
「親父がすっげえ無理してくれたから俺は中学から百花に通うことができたって話、前にもしたよな?」
「はい、頑張っているお父さんを見て、それ以上に頑張ろうって思ったって言ってましたよね」
「そうそう、よく覚えてんな。親父は昔っから仕事人間だったんだけど、あることをきっかけにもっと仕事にのめり込むようになっちまった」
「あること?」
四信先輩の手を強く握る。また震えてしまったらいやだから。四信先輩には笑っていてほしい。それでも泣いてしまうときはある。そんなときは、となりで寄り添いたい。兄貴が俺にそうしてくれていたように。
「忘れもしねえ小四の誕生日、家に帰ったらいつもなら家にいるはずの母さんがいなかったんだ。母さんはスーパーでバイトしてたし、残業でもしてんのかなって思ってリビングに行ったら一枚の紙切れと母さんの指輪が置いてあった。今なら意味わかるんだけどよ、当時は俺もガキでよくわかんなくって」
一枚の紙切れと指輪――離婚届けと結婚指輪。意味がわからなくてよかったとも、わかったほうがよかったとも言えない。
「リビングでずっと母さんの帰り待ってた。帰りにケーキ買ってくるねって言ったのにまだ帰ってこねえなあ、おかしいなあってテレビ見ているうちにソファーで寝ちまって。目を覚ました時にはすっかり朝になってて、紙切れと指輪はもうテーブルには置いてなかった。最初から、そんなものなかったみてえに」
四信先輩の声が、また震える。俺は、つらいことを思い出させてしまっている。四信先輩の思い出したくない過去を言わせてしまっている。だけど、ここでやめていいですよ、なんて言えない。四信先輩のつらいこと、悲しいこと、ぜんぶ知りたい。ぜんぶ知って、俺はずっとそばにいますと言いたい。
四信先輩の腕を引いて抱きしめると、四信先輩は頬を緩めて俺の胸元に顔を埋めた。「……ありがとな、旺二郎」四信先輩の腕が俺の背中にするりと回った。どういたしましてと四信先輩の髪を、背中を撫でる。
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