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二秒で開ける_10

「俺さ、捨てられるのが怖くて、誰にでも優しくすることにしたんだ。孤独を感じているやつがいたら俺がまとめて全員救うヒーローになるって決めた。中学生だった俺を俺自身が救えなかったかわりに、いじめられてるやつとか――七緒のことも、助けた。完全に俺のエゴ。七緒のためじゃねえ、俺が俺のために救ったのによ、七緒はそんな俺を好きだったって、言ってくれた」  びくりと不自然なほど肩が跳ねてしまった。  まさか、四信先輩の口からなっちゃんから告白されたという話がでるとは思わなくて、あきらかに動揺してしまう自分がいる。くそダサい。  四信先輩はあまりの動揺っぷりにゲラゲラ笑うと、俺の髪をぐしゃぐしゃと掻き乱した。「……なにするんですか」と唇を尖らせると、四信先輩は「ごめんて!」とふざけるように笑って、俺の唇にやわらかいなにかが触れた。え、あ、いまのって、四信先輩の、唇?  四信先輩は耳まで赤く染めながらも、俺の肩をしっかり掴んで、俺の目を見てくれている。だから、俺もそらしたらだめだ。 「……俺、七緒の告白に勇気すっげえもらった。だから、俺も言わなくちゃいけねえって思ったんだ、お前が、旺二郎のことが、好きだってよ」  四信先輩となっちゃんがどんな話をしたのか、俺にはわからない。なっちゃんのたった一言を聞いて、扉を閉めてしまったから。でも、きっと、なっちゃんは、四信先輩の背中を押すために告白したのだとわかった。だって、なっちゃんだから。 「ほんとは、もっと前から気づいてた。でも、好きなやつに、旺二郎に、捨てられたら、俺は今度こそ、心が壊れちまう気がして、待ってくれって言って、逃げてた」  ああ、もう、四信先輩のバカ、バカ、大バカ!  四信先輩の両頬を手で挟んで、思いきり唇を押しつける。いつまでたってもキスが上手くなりそうにないけど、俺の気持ちぜんぶ伝わってくれと、なんども、なんども、口づけた。 「バッカじゃないですか、俺の気持ち、なめないでください、捨てるわけないでしょう、俺の心臓とりだして、こんなにもドキドキしてるって、四信先輩に見せられたらいいのに。頭ん中だって、いつも四信先輩のことでいっぱいです……でも、口で捨てませんって言ったところで、はいそうですかってなるわけない。でも、だから、俺は、四信先輩が好きだって毎日言います。だから、四信先輩も安心して、俺のこと好きって言ってください。俺の、恋人になってください」  さっき四信先輩がしたように、四信先輩の肩を掴んで、しっかりと目を見る。そうしていると、ぽろりと四信先輩の目から一筋の涙がこぼれた。悲しく泣いているわけじゃない、だって、四信先輩は無邪気な顔をして笑っている。世界で一番かわいい笑顔だ。 「はい、俺を旺二郎の恋人にしてください」  俺のまねっこですかと笑い、似てただろと四信先輩が笑う。ぜんぜん似てませんよと額をくっつけて笑い合い、目が合ったしゅんかん「キスしていいですか」と聞く。四信先輩は照れくさそうに、だけど、小さく頷いてくれたから、二人でベッドに倒れこんで夢中になってキスをした。

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