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二秒で決める_02
「おっ、旺二郎は待てができてお利口だなー」
待てができたというか、勃起しないように精神統一していただけなのに大好きな四信先輩に褒められるとか今日はなんてラッキーデー。そういえば、占いでも一位だったな。「やることなすことうまくいきます!」たしか、そんなことを言っていた気がする。
「四信先輩、お利口にしていた俺にご褒美はないんですか」
「なにがほしいんだ? 俺にできることならなんでも言えよ」
なんでも? ほんとに? いいんですか?
四信先輩は清らかな黒い瞳で俺を見つめてくる。黒いダイヤモンドってあるのかな。あるとすれば、四信先輩の瞳はまさしく黒いダイヤモンドだ。「そういえばダイヤモンドって四月の誕生石だよね! 四月バースデーといえばちゃんしーパイセン!」なっちゃんがそんなこと言っていたっけ。
あまりにきれいで吸い込まれそうになるのをぐっと堪え、ご褒美を考える。
たった二秒で思いつく。思いつくけど、でも、言えない。四信先輩を押し倒してあんなことやこんなことをしたいですなんて、言えるわけがない。頭の中すけべだらけと思われたくない。四信先輩に対してすけべなだけで、いつもすけべなわけではない。
ううん、首をひねり考え込む。つき合い始めてからデートらしいことを一度もしていない。俺にとっていまの状況、自主練がデートといえばデートだ。だけど、どうせならデートらしいデートがしたい。せっかくの夏休みなのだ、お祭りだとか、花火大会とか――沖縄の海で二人きりのデートをしたい。
「……四信先輩と沖縄に行けたらデートしたい、です。そんな時間ないかもしれませんけど」
バスケ漬けになっている四信先輩にそんな余裕がないことはわかっている。「でもむりですよね」落としたスケッチブックを拾い上げるために椅子から立ち上がろうとすると、四信先輩に腕を掴まれた。
「どうしたんですか、四信先ぱ」
四信先輩のやわらかい唇がいっしゅん触れ、すぐさま離れていった。引き止めたかったけど、四信先輩からのキスが嬉しくて体が反応しそうにない。四信先輩はニカッと歯を向けて笑うと、俺の髪をわしゃわしゃと掻き乱してくる。ああ、気持ちいい。俺は四信先輩のガサツな手が大好きだ。
「旺二郎可愛すぎかよ! すっげえときめいたわ。もちろんデートしようぜ。自由時間の時、連絡するからよ。デートするためにも旺二郎にはちゃんと沖縄来てもらわないとな」
「あ、奥の手ですね」
「おう、奥の手だ。奥様の手じゃねえからな」
「わかってます」
意味はわからないけど、奥様の手じゃないことはわかってます。しっかり頷くと四信先輩はますます笑顔を深めて「旺二郎いい子だな!」飼い犬を褒めるように俺の頭を撫で回してくる。幸せだ。この時間がいっしょう続けばいいのに。
「で、奥の手なんだけどよ。三千留に頼むってのはどうよ」
「みっちー……白金パワーで飛行機を買い占めるとか」
「まあ白金パワーがあればそれぐらいできそうだな! 自家用ジェット持ってるって聞いたぜ」
「じ、じかようじぇっと」
どこのセレブの話だと絶句しそうになるけれど、白金財閥といえば日本人ならずとも世界で名を轟かせている。自家用ジェットのひとつやふたつ、持っているかもしれない。よし、みっちーに相談だ。
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