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二秒で決める_07

 たったの二時間半で沖縄へ到着し、手荷物を肩にかけながら空港を歩く。夏休みだからか、空港はがやがやと賑わっている。もう四信先輩たちは練習を始めている頃だろうか。  クロップドパンツのポケットからスマホを取り出す。『いま沖縄に着きました。今晩会えますか。一目でいいから会いたいです』我ながら気持ち悪い。書き直そうとしたしゅんかん、ドンっと人にぶつかる。あ、と気がついたときには指がすべりメッセージは四信先輩へ送信されてしまった。  最悪だ。がっくしうなだれたくなるけれど、歩きスマホしていた俺が全面的に悪い。歩きながらスマホを見るのはやめようと眉を下げ、ポケットへとしまった。 「旺二郎、移動したい時はここに電話しろ、白金のリムジンが迎えに来る。ほかにも困ったことがあれば俺に連絡をくれ、大抵のことなら解決できる」 「司さん、なにからなにまでありがとうございます。司さんは乗って行かないんですか?」  司さんが用意してくれたのだろう黒いリムジンに乗ると、司さんは俺のとなりに座ることなくメモを渡してくれた。スケジュール帳を破いたのだろうそのメモはリムジンの電話番号、司さんの電話番号とラインのIDが美しい文字で記されていた。 「俺は自分の足で子猫に会いに行きたくてな――旺二郎、これを好きに使え。楽しいバカンスを」  これと言って手渡されたのは真っ黒のクレジットカード。え、ええ、なにこれ。いわゆるブラックカードってやつ? こんなもの使えないんだけど。無理ですと口を開く前に司さんはスタスタ歩きだしてしまう。  白金家おそるべしとため息を吐くとリムジンが静かに動きだした。軽いはずのブラックカードがずっしり重く感じられ、手荷物から財布を取り出して中へとしまう。 「……四信先輩から返事来てるかな」  まだ練習中かな、お昼休憩の時間かもしれない。  もそもそスマホを取り出し、飛び込んだメッセージに思いきり口元が緩んだ。 『俺も会いたい』  シンプルなメッセージに四信先輩の愛がたくさんつまっている。はやく会いたいとスマホをぎゅっと握りしめてから『夕方、部屋に行きますね』と返信を打った。  みっちーがとってくれたホテルとバスケ部が泊まるホテルはどちらもなっちゃんのお父さんが経営する本郷リゾートだ。きっとみっちーはバスケ部がどこに泊まるのか調べ、気を利かせてくれたのだろう。  窓から外を眺める。エメラルドグリーンの海を泳ぐ人たち。サーフィンをする人。砂浜で寛ぐ人たち、それと――場違いなスーツを着て歩く司さん。海にいたんだと目を細めると、司さんは褐色の美少年の腰に腕を回して微笑んでいた。少年のプラチナプロンドがそよそよと揺れ、司さんが愛しげに撫でる。少年は猫のような金の瞳を照れくさげに細め、嬉しいのに素直に表現できないのか、眉を寄せている。だけど、金の瞳は司さんをじっと見上げていた。  ああ、すごくきれいだ。二人の姿はまるで、モネの『プールヴィルの断崖の上の散歩』みたいに美しい。  二人の光景を目に焼きつけながら、スケッチブックを取り出す。今日みっちーに送る絵はこれにしよう。  一心不乱に二人の絵を描いているうちに、ホテルへたどり着いていた。

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