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2.キス、したい

「きよたかー、俺、マジでおまえのこと、好きだわー」 明日も朝が早いことはわかっているのに、これからはこうやって簡単に、清隆とは酒が飲めないのだと思うと、ついつい飲んでしまう。 ……清隆は福岡の大学に進学して、初めてできた友達だ。 田舎から出てきた俺にとって福岡の街は都会で。 しかもまわりには知っている奴なんてひとりもいない。 不安で不安で、半ば怯えていたら、清隆が声をかけてくれた。 「あのときの|弘通《ひろみち》の顔。 捨てられた子犬みたいで可愛かった」 ことあるごとにそう云われ、顔から火がでそうな思いをしていたものいい思い出。 「ありがとう、弘通。 俺も弘通が好きだよ」 「そっかー」 なんか嬉しくてついヘラヘラ笑ってしまう。 さらに焼酎を一杯あけ、……このあと、猛烈に後悔する一言を云ってしまう。 「俺、清隆とだったら、キス、したいー」 酔った勢い、だったんだと思う。 心のどこかで、清隆とだったら、唇がふれるくらいのキスならしてもいいと思っていたのかもしれない。 ……でも。 「……なにそれ、冗談?」 ワントーン低い声になった清隆に、一気に酔いが醒めた。 「このまま友人として弘通と別れて、この先も友人でいいから弘通の中にいたいと思ってたのに。 ……俺、本気にするよ?」 「きよ、たか……?」 気付けば俺の背中には床。 顔の両側につかれた清隆の手。 「俺のなけなしの理性、ぶっ飛ばしてくれたの弘通だからね。 悪いのは弘通なんだから。 俺は……俺は……悪くない」 自分のことを必死で正当化しているくせに、清隆の顔はつらそうに歪んでいる。 俺があんな顔させているんだと思うと苦しい。 清隆の顔が近づいてきて……唇が、ふれた。 ……離れてくれ、このまま。 ここまでなら、笑ってすませられるから。 けれど俺の願いは虚しく、清隆の舌が俺の唇を舐めた。 ぎゅっと固く、唇を結ぶ。 二度、三度と俺の唇を舐めた清隆だったけれど、諦めたのかゆっくりと顔を離した。 「ダメだよ、弘通。 唇、ゆるめなきゃ。 舌、入れられないだろ?  わかる、よね?」 俺の上で不思議そうに首を傾げる清隆の顔は、いまにも泣き出しそう。 「……清隆。 悪い、無理だから。 俺は、その……同性愛者じゃない、から」 「なんで? 弘通は俺のこと、好き、だよね? 俺とだったらキス、したいんだよね?」 「……悪い、清隆。 無理だ。 友人としては、その、おまえのことが好きだけど、あの、そういう目では……見られない」 「なんで? 俺のこと、好きだって。 俺とだったら、キス、したいって云ったのに!」 俺の胸を拳で叩きながら、ぽろぽろと清隆が大きな目から涙がこぼれ落とすのを、ただ黙ってみてた。 ぽろぽろ落ちる涙はぼろぼろに変わり、気付いたときには号泣になっていた。 なにが正解かわからずに、おそるおそる清隆の背中に腕を回す。 手が背中にふれるとびくりと大きく震えたけれど、かまわずに抱きしめた。 「ごめん、清隆」 清隆は子供みたいに泣きじゃくっている。 泣いて泣いて、泣き疲れて……そのまま眠ってしまった。 「……ひろみち……」 清隆の声に思わず背中が震える。 おそるおそる振り返ると、夢の中でも泣いているのか、眠っている清隆の目から涙がつーっと流れ落ちた。 ……ごめんな、清隆。 ずっと気持ちに気付いてやれなくて。 苦しかっただろ、おまえ。 ……でも、正直、俺、明日からどんな顔しておまえと話せばいいのか、わからないんだ。

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