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2.ピンチヒッター
「いらっしゃいませー。
二名様ですね?
こちらにどーぞー」
入ってきた生徒ふたりを席に案内するが、僕には全く気づかない。
童顔だという自覚はあるが、そこまで違和感がないと反対に傷つく。
……あのあと。
僕は生徒に無理矢理、……制服を着せられた。
今日、熱を出して急に休んだ奴のピンチヒッターを頼みたかったらしいのだが、……制服を着る必要はあったのだろうか?
まあ、生徒も喜んでいるようだし、急ぎの仕事もない。
苦笑いで応じることにした。
「いらっしゃいませー。
四名様ですね?
こちらにどーぞー」
席に案内した生徒が、ちらちらと何度も僕の顔を確認する。
「ご注文はお決まりですかー?」
「……もしかして、青木?」
「青木じゃなくて青木先生、だよね?」
おそるおそる聞いてきた生徒にニヤリと笑いかえすと、一気に目を大きく見開いて驚いていた。
「マジで!?
ぜんぜんわかんなかった!」
「えっ、青木!?
違和感ねー!」
「制服似合いすぎだろ、青木ちゃん!」
ひとりの上げた声に視線が集まった。
わらわらと生徒が集まって来だして、気づけば大撮影大会。
まー、確かに僕も、教師が制服着て生徒に混ざっていれば、同じことをすると思う。
「なんの騒ぎですか、これは!?」
嫌みったらしい声に、一気にしーんと静まりかえる。
その中を、教頭が人並みをかき分けて僕の前に進んできた。
「いったい、いつになったら学生気分が抜けるんですか、青木先生は」
「……すみません」
うっ、怒られた。
確かに大学を卒業してまだ二年。
学生気分に戻って面白がっていたことは否定できない。
「教師が生徒と一緒になって羽目を外してどうするんですか」
「はい」
くどくどと続く教頭の説教を、神妙なフリをして聞いていた。
ふと、教頭の背後に視線を向けると、僕に無理矢理、制服を着せた生徒が身振り手振りで謝っていた。
視線の合った彼に小さく首を振り、頷いてみせる。
無理矢理着せたのは彼だが、僕自身面白がっていた。
悪いのはきっぱりと断らなかった僕の方だ。
「聞いているのですか!?」
「はい、申し訳ありませんでした。
反省しています」
「気をつけてくださいよ」
ふん、教頭が出て行き、教室中からため息が落ちた。
「ごめん、青木ちゃん。
俺たちが面白がったから」
「別にいいよ。
僕も楽しかったからね。
……悪いけど、手伝いはここでお終い」
「ありがとう!
ほんとに助かったよ。
ごめんね!」
脱いだスーツを回収し、着替えに教室を出ようとすると、生徒からお礼だと袋を握らされた。
開けて見た袋の中には、模擬店で出している食べ物が入ってる。
こういう生徒たちだから、制服を着せられるなんていたずらをされても、あまり怒る気になれない。
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