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3.……あの日の、忘れ物

生物準備室に行くと、ガラス扉に自分の姿が映った。 それは、六年前の僕とまるで変わってないように見える。 六年前、僕はこの高校の生徒で、六つ年上のあの人は生物教師としてこの高校に勤めていた。 その頃が懐かしく、そっと開けた引き出しの中にはライター。 あの人の忘れ物。 「なあ。 教頭がかんかんに怒ってたけど、もう着替えたのか?」 コンコン、ノックの音に慌てて引き出しを閉め、振り返るとあの人――武原がにやにや笑っていた。 「それ着てると、あの頃に戻ったみたいだな」 「そんなことより。 挨拶は終わったんですか?」 なんとなく気恥ずかしく、武原と目を合わせられない。 さりげなく話題を変えると、武原は窓を開けた。 冷たい風が頬を撫でる。 遠くから聞こえる、文化祭の喧噪。 ……まるで、あの日のように。 「ああ、これで週明けからおまえの同僚」 煙草をくわえた武原はせわしなくポケットを探っているが、どうもライターが出てこないらしい。 「何度も言うようですが、ここ、禁煙なんですからね」 引き出しのライターを投げて渡すと、受け取った武原はそれで火をつけた。 「相変わらずうるさいな、青木は。 ……ん? このライター、無くしたのかと思ってた」 「あなたの忘れ物ですよ」 熱い頬を誤魔化すようにずり落ちててもない眼鏡を人差し指で押し上げると、ニヤリ、武原の片頬が上がった。 ……昔と同じ顔で。

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